電子マネーのビットコインの特徴は、どの政府からも独立していることだ。しかし、独立性が強すぎれば、社会の主流にはなりにくい。そこで研究者は、電子マネーを連邦準備銀行のような中央銀行が制御できるようにすることで、電子マネーをもっと実用的にできるビットコインに似たシステムを開発した。
「RSコイン」は、英国の中央銀行であるイングランド銀行の要請を受け、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのサラ・ミクルジョン助教授とジョージ・ダニジズ教授が開発したシステムだ。イングランド銀行は2016年初めに電子マネーを発行する構想を研究し始めた。イングランド銀行のベン・ブロードベント副総裁は、小売り業の決済の効率を高め、金融システム全体を堅牢にする可能性がある、と3月に発言した。電子マネーを瞬時にある場所から違う場所へと送金できるソフトウェアは、多くの取引を大小を問わず早めて、取引コストを低くするだろう。
ビットコイン同様、RSコインも電子マネーを偽造しにくいするために暗号を使う。どちらのシステムでも、取引は通貨の全ての動きを記録するデジタル元帳に追記される過程で検証される。
しかし、ビットコインの元帳は世界中に散らばるコンピューターの集合体で維持されており、すべてのコンピューターは誰かに権限を与えられたわけでも、第三者が信頼性を保証したわけでもない、ユーザーや企業によって運用されている。さらにシステムの設計上、ビットコインの総額は2100万ビットコイン以上は存在しえない(ビットコインは時間経過とともに発掘しにくくなり、2016年時点で1500万ビットコインが流通している)仕様だ。
一方、RSコインの元帳は中央銀行が管理しており、通貨供給量の制御に使われる特別な暗号鍵も中央銀行が保持する。この仕様により、たとえば2008年の金融危機後に連邦準備銀行等、各国の中央銀行が打ち出した量的金融緩和政策のような行動ができるのだ。
新しい取引を処理し、中央元帳に包摂されるように取引データを提出するのは、中央銀行が選出した第三者機関(ミクルジョン助教授は大規模商業銀行がふさわしいという)だ。またミクルジョン助教授は、RSコインの中央集権型の設計は、ビットコインとは異なり、非常に大きな数の取引を処理できることを意味している、という(“Technical Roadblock Might Shatter Bitcoin Dreams”参照)。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のバグワン・チョウディー教授(経済学)は、RSコインのようなシステムを適用することで、中央銀行は金融システムをより人びとに役立つように変えられるかもしれないという。「電子マネーの恩恵は非常に大きなものです」
通貨を以前より簡単に送れることは、経済に潤滑油を差すのと同じであり、世界中で、もっと多くの人が基本的な金融サービスを利用できるようになる、とチョウディー教授はいう。電子マネーを既存の金融システムに統合することで、多くの人びとにとってビットコインよりもずっと受け入れやすい電子マネーになる。「中央集権型のソリューションに賛同しないリバタリアン(極端な自由主義者)にいますが、多くの消費者は電子マネーが安全で使いやすければ、適応するでしょう」
たしかに、中央銀行が電子マネーに傾注する理由のひとつは、電子マネーの元帳が経済活動の非常に詳細にわたる記録になるからだ。ミクルジョン助教授は、銀行が透明性のために元帳を公表したり、取引の一部または全部を匿名化したりもできるだろうという。
今のところRSコインはアマゾンのクラウド・コンピューティング・プラットフォーム等、30のさまざまなコンピューターで検証された。ミクルジョン助教授は、RSコインをどう実用段階に移すかについてさらに研究しようと、イングランド銀行と話し合っているという。
ミクルジョン助教授とイングランド銀行は、RSコインのようなシステムによって、銀行等の金融機関がどのように従来の資産を運用したり、先物契約のような特定の取引を自動化したりできるかに興味がある。多くのスタートアップ企業や、IBM等の大きなコンピューター企業も、ブロックチェーンによる通過のアイデアを研究中だ(「マイクロソフトはなぜブロックチェーンに投資するのか?」参照)。
2016年2月、サンフランシスコで開かれたネットワーク&ディストリビューション・システム・セキュリティ・シンポジウムでは、RSコインについての論文が発表された。