米西部で高まる大干ばつのリスク、「危険な夏」へ備えを
気候変動の影響を受けて、米国西部は大洪水と大干ばつを繰り返す極端な気候に変化してしまった。今夏も水不足を受けて、極端な干ばつ、大規模な山火事の発生などのリスクが高まっている。 もはや元に戻ることはないのだろうか。 by James Temple2021.05.24
米国西部の広い範囲で、川や貯水池、地下水の水量が危険なほど減少しており、今後数カ月で水不足や大規模な山火事の発生、農地に作付できなくなる危険性が高まっている。
シエラネバダ山脈に散在する観測所は、この時期に記録的な乾燥状態を何度か記録している。春の気温が高かったため、例年カリフォルニア州の水の3分の1を供給している冬の残雪は、すでにほとんど溶けてしまった。
州の半分が「異常な干ばつ」に直面しているニューメキシコ州では、水道企業団が農家への分配を遅らせ、できるだけ作付けをしないようにしきりに勧めている。
「米国干ばつモニター(US Drought Monitor)」によると、全体で見ると米国西部の85%近くが現在、干ばつ状態に苦しんでいる。この地域のほぼ半分で、気候変動によって悪化した、乾燥した高温の状態が何年も続いている。そして今、極端あるいは異常な干ばつ状態となっている。
今年の干ばつの近因は、嵐を北に押し進めるラニーニャ現象と重なった弱い夏の季節風だ。しかし、真の問題はここ数カ月の雨や積雪の少なさどころではない。昨年、サイエンス誌に掲載されたある研究によれば、南西部はここ20年間、1500年代以来の記録的な乾燥期を経験してきた。
深刻な問題の原因の46%は気候変動にあり、中程度だったはずの干ばつを、「メガドラウト(極端な干ばつ)」と科学者が考える領域に押しやっている。他の多数の研究でも、「気温が上がればそれだけ南西部では頻繁に、より深刻な干ばつ」が起こることが示されていると、2018年の全国気候評価は指摘している。
「雪は速く溶け、より多くの水分が蒸発します。多種多様な方面でまさに事態の流れが変わってしまいます」。スタンフォード大学「西部・水イニシアティブ(Water in the West initiative)」で都市の水政策を研究するニューシャ・アジャミは述べる。
干ばつが引き起こす大火災
各地域は急激に高まっている危険に取り組み始めている。
カリフォルニア州では、ギャビン・ニューサム知事が緊急の水需要への対応や、地域の給水インフラの強化などに50億ドル以上を支出することを提案している。知事はカリフォルニア州北部のほぼ全域や、州内の肥沃な農業地帯、セントラル・バレーなどを含む41郡に干ばつによる緊急事態を宣言した。
サンフランシスコの北部にあるマリン郡は、大部分が地域の給水システムから孤立している。今年は記録的なほどに雨量が少なく、貯水池は不気味なくらい水位が低くなっている。水道企業団はリッチモンド-サンラファエル橋に、少なくとも一時的なパイプラインを構築し、水の供給を確保できないか協議しているが、これは1976年~1977年に同州で起こった壊滅的な干ばつ以来のことである。
研究者、当局者、緊急時対応要員は、早めのスタートを切った大変な火災シーズンに向けて準備をしている。ロサンゼルス近郊のパリセーズで起こった火事は、ここ数日で4平方キロメートル以上を焼き尽くし、1000人以上が避難した。
「火災シーズンにおける危険な要素のいくつかは予想できますが、できないものもあります」と指摘するのは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の気候科学者で、干ばつや洪水、山火事の要因となる大気条件を研究しているダニエル・スウェイン博士だ。「予想できるすべての要素について、すでに警報ベルを鳴らしています」。
洪水は「普通のこと」
複数の気候モデルによって、温暖化は降雨パターンの変動性を高め、極端な干ばつと洪水の期間が「むちで打つように」急速に移行するようになっている。「むちで打つように」とは、カリフォルニア州の気候を研究している研究者による表現だ。
しかし、たとえ平均的な降雨レベルが同じままでも、何年もの間、極端な干ばつと極端な洪水を行き来している異常気象は、相殺できるものではない。地域が根本的に水の管理方法を再検討しなければ、次から次へとさまざまな災害が起こることになるだろう(カリフォルニア州での2012年~2016年の干ばつを参考にすると、その直後には泥流を引き起こし、道路を押し流し、あるダムを限界近くまで追い詰めた洪水が起こった)。
「『洪水は普通のことだ』と考え方を変えなければいけません」と、アジャミは述べる。「雨が多い年には、なるべく多くの雨を確保するためにできる限りのことをして、また干ばつになった時のために十分に貯めておくようにすべきです」
そのためには、汚染された帯水層(地下水が飽和している地層)をきれいにして豪雨の年に水を補充することにより、地下水をより良く活用しなければならない。また、各地域は水資源がシステムに入ったら、節約、再利用、リサイクルなどに取り組み、効率よく水を利用をする必要がある。
淡水化の技術をもっと活用し、そのコストを押し下げる必要もあるだろう。飲料水を海水から作り出す巨大なプラントはもちろん、汽水域の地下水を淡水化する設備や、都市の排水を処理し、現地での工業用水再利用を可能にする施設など、小規模で内陸に設置する施設も必要だ。こう指摘するのは、スタンフォード大学の土木・環境工学のミーガン・マウター准教授だ。マウター准教授は、全米水イノベーション連合(National Alliance for Water Innovation)で研究を主導している。
事態が悪化するにつれ、農場やビジネス、都市は移動すべきか、成長できるのか、そこに留まるべきかといった、より難しい問題に取り組まなければならなくなる地域もあるだろう。
しかし今のところ、西部全域に住む何千万人の人々は、非常に暑く、乾燥し、危険だと予想されている夏への備えを願っている。
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- ジェームス・テンプル [James Temple]米国版 エネルギー担当上級編集者
- MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。