今世紀半ばまでに二酸化炭素排出量をゼロにするには、削減量の半分近くは、現時点でまだ初期段階にすぎないテクノロジーで賄う必要がある。
国際エネルギー機関(International Energy Agency:IEA)が5月18日に発表した報告書は、クリーンエネルギー技術の研究、開発、および規模拡大への積極的な投資が必要だと指摘している。
2050年までにエネルギー関連の二酸化炭素排出量をゼロにし、地球の気温上昇を1.5℃以内に抑えるためのIEAのロードマップには、現時点でほぼ存在していないテクノロジーや、非常に高価なテクノロジーが含まれている。例えば、現在よりはるかに大容量の電池、工業プロセス用の燃料や供給原料としてのクリーン水素、航空機用の液体バイオ燃料、それに工場やガス燃料発電所、石炭燃料発電所などから排出される二酸化炭素を安価に回収する装置などだ。
報告書はまた、二酸化炭素を空気中から回収する技術への多額の投資が必要であるとも強調している。例えば、現在は非常に高価な直接空気回収(DAC)装置や、植物原料を燃料として使用し、燃焼中に発生する排出ガスを回収する「回収・貯留付きバイオマス発電 (BECCS)」などがある。
IEAの調査結果は、気候変動と戦うための新たなテクノロジーの創造に注力すべきか、それとも既存のテクノロジーを積極的に展開し普及させるべきか、という現在進行中の論争に影響を及ぼす。
米国のジョン・ケリー気候変動担当特使は、英国放送協会(BBC)のインタビューで「科学者たちからは、実質ゼロを達成するために必要な削減量の50%は、我々がまだ持っていないテクノロジーによってもたらされるだろうと聞いています」と述べ、ネット上で反発を招いた。
IEAは、これらを「現時点でデモンストレーション、または試作段階にある」あるいは「まだ商業的に利用可能ではない」テクノロジーと表現している。
しかし、IEAの報告書は、イノベーションか普及かの二者択一の問題ではないことを明確にしている。今世紀半ばの目標を達成するには、既存のテクノロジーをいかに迅速に成長・発展させる必要があるか、タイムラインで示している。
2030年までに、世界全体で年間1000ギガワット以上の風力・太陽光発電容量を追加する必要がある。現在の米国の総発電容量に迫るほどの数字だ。2030年までに自動車の新車販売の60%を電気自動車(EV)にし、2035年までに大型トラックの半分を電気自動車にしなければならない。さらに2045年までに、世界の熱需要の半分を、クリーンな電力で稼働するヒートポンプで賄う必要がある。
つまり、一度にすべてを飛躍的に進歩させなければならないのだ。