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新型コロナ起源、流出説排除せず再調査を=著名生物学者らが主張
REUTERS/Thomas Peter
Top researchers are calling for a real investigation into the origin of covid-19

新型コロナ起源、流出説排除せず再調査を=著名生物学者らが主張

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の起源をめぐって、世界的に著名な生物学者18人が連名で再調査を求める書簡を発表した。研究所流出説を単なる陰謀論として片づけるのではなく、科学的な立場から検証するよう求めている。 by Rowan Jacobsen2021.05.17

1年前、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが研究所での事故によってもたらされた可能性について、世界の主な学術誌、科学者、報道機関はただの陰謀論 だと一蹴していた。

だが、これまでに数百万人の死者を出したウイルスの起源は今も謎のままであり、研究所が起源であるという可能性もまだ完全に排除することはできない。

そして今、コロナウイルスの世界的な研究者を含む18人の著名な生物学者が、科学雑誌「サイエンス」へ連名で書簡を投稿し、新型コロナウイルスの起源について考えうる限りあらゆる可能性を含めた新たな調査を実施する必要があると訴えている。中国の研究所や政府機関に対しては、独立機関による分析に向けて「記録を開示」するよう求めた。

「十分なデータが得られるまでは、自然発生説と研究所流出説の両方を真剣に検討しなければなりません」と、書簡では述べられている。

今回の書簡は、世界保健機関(WHO)と中国が先ごろ共同で実施した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の起源に関する調査を受けて、スタンフォード大学の微生物学者デイヴィッド・レルマン教授とワシントン大学のウイルス学者ジェシー・ブルーム准教授が中心となって執筆したものだ。WHOと中国の調査団は、コウモリのウイルスが中間宿主である動物を経由して人間へ感染した可能性が高く、研究所から流出した可能性は「極めて低い」と結論付けていた。

書簡の執筆者らは、この結論に対し、新型コロナウイルスがどのようにして最初の人間へ感染したかを示す痕跡が見つかっていないため、科学的に正当化できないとしている。さらに、研究所での事故の可能性についてはほとんど表面的な調査しかされていないとも指摘する。313ページにおよぶWHOの報告書と付属文書のうち、研究所での事故の可能性に触れているはほんのわずかだ。

書簡に名を連ねた一人で、著名なハーバード大学の疫学者マーク・リプシッチ教授は、研究所流出説があまりに論争的になってしまったこともあって、最近になるまでウイルスの起源について自らの意見を明かしてこなかったと話す。それよりも、疫学的研究とワクチン治験計画の改善に集中する方を選んだと言う。「パンデミックの原因よりも、結果に対応するほうが忙しかったため、論争には関わらないようにしていました。ですが、これほど重大な問題に関してWHOが言い訳めいたレポートを出してきたのを見て、意見を述べなければならないと考えました」。

リプシッチ教授やレルマン教授をはじめとする何人かの連名者は過去にも、ウイルスの感染力や毒性を高めるために遺伝子の組み換えを実施する「機能獲得」研究への監視を強化すべきだと訴えていた。中国のコウモリウイルス研究をリードする武漢ウイルス研究所では、新型病原体の遺伝子組み換え実験が実施されていた。その武漢で新型コロナウイルス感染症が最初に見つかったという事実こそ、研究所の事故が原因である可能性を示す状況証拠であるとの見方も一部にはある。

リプシッチ教授は以前、警備の厳重な生物学研究所からの流出事故が原因でパンデミックが起こる危険性は年間で1000分の1から1万分の1の確率と見積もっており、このような研究所が世界数千カ所に増えていることに対して警告を発していた。

中国の科学者は、流出は起きていないと主張しているが、書簡の執筆者らは、独立機関による調査でなければ主張を立証できないとしている。「適切な調査は、透明性と客観性を持ち、データを重視し、幅広い専門知識を含め、独立機関による監視を受け、責任ある管理により、利益相反の影響を最小限に抑える必要があります」と、書簡では述べられている。「公衆衛生当局と研究機関は、いずれも記録を公開する必要があります。調査団はデータの誠実性と出典を実証したうえで、そのデータを分析して結論を導き出さなければなりません」。

武漢ウイルス研究所の新興疾患主任科学者である石正麗(シー・ジェンリー)博士は、書簡の疑念は誤りであり、パンデミックに対する世界の対応能力を損なうものだと、電子メールでコメントを寄せた。また、シー博士の研究室の記録を公開すべきだとの主張に対しては「全く受け入れられません」と反論した。「存在もしていない証拠をどうやって出せというのでしょうか」。

「この『書簡』に18人もの著名な科学者が名を連ねているとは、嘆かわしいことです。このような主張が、人へ感染する恐れのある新型動物ウイルスの研究に力を尽くす科学者の名声と熱意に傷をつけることは間違いありません。そしていずれは、次のパンデミックを防ごうとする人類の対応能力を弱めてしまう恐れもあります」

Shi Zhengli at Wuhan Institute of Virology
中国のウイルス学者・石正麗(シー・ジェンリー)博士。武漢ウイルス研究所内の厳重に警備された研究室にて。シー博士は、研究室記録の開示を求める部外者の要求は「受け入れられない」としている。

研究所からの流出説をめぐる論争は、高度な政治的論争に発展している。米国では、共和党議員や、フォックス・ニュース(Fox News)のパーソナリティーであるタッカー・カールソンをはじめとする保守系メディアの出演者たちが声高に研究所流出説を主張し、その結果、科学者が委縮するほどの激しい対立が起こった。そのため、自身の懸念を公にすることを躊躇する科学者もいると、レルマン教授は言う。

「何か発言しなければという思いに駆られました。科学とは、物事を明確にするために、どこまでも公平で厳しく、開かれた取り組みであるはずなのに、今はそうなっていないからです。私にとっては、他の科学者たちが自分の意見を言える安全な場所を作ることも、今回の書簡の目的の一つでした」。

スタンフォード大学のバイオセキュリティの専門家であるメーガン・パーマー非常勤教授(今回の書簡には関わっていない)は、次のように話している。「理想的には、データは少ないが可能性のある複数の仮説を検証する際には、できるだけはっきりとした目で見るべきです。そうした議論の余地のほとんどないことを、この書簡は呼びかけています。政治が複雑化し、利害関係が大きい場合、著名な専門家からの意見が他の人々の慎重な考察を促せるかもしれません」。

疫学者で疾病調査官のケネス・バーナード海軍少将もこれに同意する。「バランスの取れた、よくまとまった書簡です。私の知るすべての優秀な疫学者と科学者の意見を正確に反映しています。私も求められれば署名していたでしょう」。バーナード少将は、生物兵器防衛の専門家として、クリントン政権とジョージ・W・ブッシュ政権で要職を務めた。

新たな調査を求める声は、以前からあった。26人の政策アナリストと科学者がウォール・ストリート・ジャーナル紙に公開書簡を掲載し、武漢研究所のさらなる調査を要求したのだ。「WHOの調査団には、完全で無制限の調査を実施できるだけの権限も独立性も、必要なアクセスもない」と、公開書簡は主張していた。

だが、主に非専門家で構成された公開書簡の執筆陣は適切な専門知識を持っていないとして、一部の権威あるウイルス学者はその内容に懐疑的だった。スクリプス研究所(Scripps Research Institute)の免疫学者でウイルスが専門のクリスチャン・アンダーセン博士は、「連名者の中に関連性のある経験を持った人物を見つけるのは困難です」とツイートした。アンダーセン博士は以前にも、入手可能な証拠からは自然起源がもっともらしいと主張している。

だが、今回の新しい書簡は、同じような理由で片付けてしまうことはできない。連名者の一人であるイェール大学の免疫学者、岩崎明子教授は、新型コロナウイルスへの免疫系の応答に関する研究を率いている。ノースカロライナ大学のウイルス学者、ラルフ・バリック教授は、コロナウイルスでは世界的権威として知られ、この種のウイルスの遺伝子組み換え技術における草分けだ。武漢ウイルス研究所も、この技術の研究に本格的に取り組んでいた。

掲載されたのが、世界でも最も権威ある雑誌の一つである「サイエンス」誌だったという点も、主張に重みを加えている。どこに発表するかの選択は重要であると、レルマン教授は言う。「連名者の何人かに、『参加したいが、世界へ向けた公開書簡や、ニューヨーク・タイムズ紙の論説欄という形で発表するのなら自分の名を加えないでほしい』と言われました。そうしたところに発表するのは、私の役割ではないと思っています。私は科学者ですから、科学雑誌で、科学者仲間に対して呼びかけたかったのです」。

新たな調査に中国が同意しなければ、今後どのような形で調査が実施できるのか、またどの国が参加するのかはわからない。レルマン教授もこの点は認めるが、この書簡をきっかけに、民主党とホワイトハウスが再調査の要請に賛同してくれることを期待している。

「価値のある調査団を組織する方法はあると思います」と、レルマン教授は言う。「2020年1月の第1週の調査で、すべてが公開されていれば、もっと鋭い調査ができたとは思います。けれど、まだ手遅れだとは思いません。明確な答えが得られないとしても、今よりは前へ進めるでしょうから、やってみる価値はあります」。

新たな調査で新型コロナウイルスの起源が特定されるかどうかはともかく、流出すれば手に負えなくなる可能性のあるウイルスの研究には、公的な監視をもっと厳しくすべきだと、リプシッチ教授は言う。「今回のパンデミックを引き起こしたのが研究所なのかどうかというだけではありません。危険な実験の規制に関心が集まることを、願っています。私たちは、パンデミックが全人類にどんな影響を与えるかを経験しました。今後、少しでもそのような可能性があるものに関しては、始める前に相当慎重にならなければなりません」。

筆者のローワン・ヤコブセンは、バーモント州に拠点を置くジャーナリスト兼著述家。

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Rowan Jacobsen is a journalist and book author based in Vermont.
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