「絵文字(emoji)」は、今では人々の言語の一部となっている。よほど変わった人でない限り、メールやインスタグラムの投稿、ティックトック(TikTok)の動画に、表現力を高めるさまざまな小さな画像をちりばめていることだろう。例えば、予防接種を受けた時の血が少し滴る注射器💉 や、「ありがとう」の意味を込めた祈りの手🙏(またはハイタッチの手)、新型コロナ感染予防に配慮した、遠くからハグをするためのジャズハンド付きで頬を赤らめた笑顔🤗 といったものだ。現在の絵文字カタログには、感情から食べ物、自然現象、旗、さまざまな年代の人を表すものまで、約3000種類のイラストが揃っている。
これらの記号を決めているのは、 ハードウェアおよびソフトウェア企業の非営利団体「ユニコード・コンソーシアム(Unicode Consortium)」である。同コンソーシアムの目的は、テキストや絵文字を読みやすく、誰でも利用できるようにすることだ。具体的な目的の一つは、すべてのデバイスで言語を同じように表示させるようにすることだ。例えば、日本語の文字は、すべてのメディアで一貫したタイポグラフィでなければならない。だが、ユニコード・コンソーシアムの役割で一般にもっともよく知られているのは、おそらく絵文字を公開し、標準化し、新しいものを承認または拒否する「絵文字の門番」としての役割だろう。
ユニコード・コンソーシアムの絵文字小委員会の委員長に、女性として初めて就任したジェニファー・ダニエルは、インクルーシブ(包摂的)で気の利いた絵文字の熱心な支持者だ。ダニエルは当初、サンタクロースやクロース夫人の代わりとなる、ジェンダー・インクルーシブな「Mx.クロース」や、ノンジェンダーの人がノンジェンダーの赤ちゃんに授乳している姿、ブライダルベールをかぶった男性的な顔などを発表したことで有名になった。
ダニエル委員長は現在、パンデミック後の未来に、絵文字を可能な限り幅広く表現できるものにするという使命を担っている。つまり、絵文字がますます公的な役割を担うようになったということだ。楽しくもマニアックな「ジェニファーは何をしますか?(What Would Jennifer Do?)」という人気ニュースレターをサブスタック(Substack、日本版注:ニュースレター配信プラットフォーム)を使って発行したり、世間一般から絵文字に関する懸念事項を募集したり、絵文字がうまく表現できていない場合や、正確ではない場合には声を上げるように呼びかけたりしている。
ダニエルは、自分の仕事について「前例がありません」と言う。ダニエルにとって、そして彼女だけでなく、人類のコミュニケーションの未来にとっても刺激的な仕事なのだ。
ダニエルが自分の役割をどう考えているのか、そして絵文字の未来について、話を聞いた。
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——絵文字の小委員会の委員長を務めるというのはどのようなものでしょう?どのようなことをしているのですか?
あまり魅力的なものではありませんね(笑)。仕事の多くは、ボランティアの管理です(委員会はボランティアで構成されており、申請書の審査や承認、デザインのサポートをしている)。事務処理が多くて、会議もたくさんあります。会議は週に2回開いています。
たくさんの本を読み、たくさんの人と話をしています。最近では、ジェスチャー言語学者と話し、いろいろな文化において人々がどのように手を使うのかを学びました。どうすれば、より良いジェスチャーの絵文字を作れるでしょうか?画像が良くなかったり、鮮明でなかったりしたら、話になりません。常にたくさん調査をして、いろいろな専門家に相談しています。花については植物園に、クジラの絵文字を正しく描くためにはクジラの専門家に、また、心臓の解剖学的構造を知るためには心臓血管外科医に話を聞きます。
ベアトリス・ウォードが書いたタイポグラフィに関する古いエッセイがありますね。ウォードは、良い書体とは豪華に装飾されたクリスタルのゴブレットなのか、透明なゴブレットなのかを尋ねました。とてもゴージャスだからという理由で華やかなゴブレットがいいという人もいれば、ワインを目で楽しめるから透明なクリスタルのゴブレットがいいという人 …