中国では都市化がかつてないスピードで進んでいる。20年ほど前、中国の都市人口は、国全体の人口のわずか30%に過ぎなかった。それが現在では60%だ。つまり、過去20年間で、米国の全人口よりも多い約4億人が、中国各地の都市部に移動したことになる(これと同じ割合の推移が起こるのに、欧州では90年、米国では60年かかっている)。しかも、都市への移住は続いており、2035年までに、中国の都市人口は全体の70%に達すると予測されている。
- この記事はマガジン「Cities Issue」に収録されています。 マガジンの紹介
人口流入対策として中国の国家都市開発政策は、個々の都市を拡大することから、複数の巨大「都市群(city cluster)」を計画的に構築していく方向へと移行した。それぞれの都市群には1億人規模という巨大人口が住むことになるという。それぞれの都市群内の都市は、経済的にも生態的にも政治的にも協力し合うことになる。そうすれば各地域の競争力も次々に高まっていくだろうという考え方だ。
この記事では、最初に中国の新戦略の起源を探り、これらの都市群の基盤が築かれている3つの分野である「高速鉄道網」「デジタル公共サービスの成長」「地域の環境管理」について、それぞれ焦点を当てて見ていく。
メガロポリスの台頭
世界の都市群の中には、長い時間をかけて有機的に形成されていったものもある。
1950年代、フランスの地理学者であるジャン・ゴットマンは、米国北東部沿岸に新しい都市化パラダイムが出現していることに気づいた。ボストンからワシントンDCに至る全長1000キロメートルの地域に3000万人が住んでおり、全体で一つの大きな都市として機能していることを発見したのである。ゴットマンは、この新しい経済的・政治的実体にギリシャ語の名を付け、「メガロポリス」と呼ぶことにした。
人口密度が高く、交通の便が良く、経済的にも優位に立ち、文化的にも影響力のある、ボストンからワシントンDCに至るメガロポリスは、米国で最も裕福で、教育水準が高く、最も良いサービスを受けている人口集団が住む地域となった。「国家にとってのメガロポリスは、大概の地域社会にとっての目抜き通りのようなものだ」とゴットマンの同僚であるウルフ・フォン・エカールトは書いた。「それは新たな都市生活様式の実験室のようなものであり、文明世界を席巻している」。
その後、メガロポリスは世界各地に出現することになる。中でも最も成功しているメガロポリスが、日本の「太平洋ベルト」である。東京から名古屋、大阪、福岡までの約1200キロに及ぶ太平洋ベルトには、日本の人口の3分の2が居住し、経済生産の約70%が集中している。
「中国では、こうしたメガロポリス(中国では「都市群」と呼ばれている)を建設することが、都市に負担をかけることなく都市がもたらす機会へのアクセスを拡大するための最善の策のように思われます」と、上海の同済大学で持続可能な開発について研究している経済学者の諸大建教授は言う。
例えば、中国の近隣する都市は、産業をあり余るほど築き上げた上で一番を競い合うことに莫大な費用をかけることで知られている。上海もその一つであり、企業に工場開設のインセンティブを与えることで、バイオテクノロジーやチップ製造のハブとしての地位を確立しようとしてきた。上海以外にも、近隣のいくつかの都市が、ほぼ同様の取り組みを開始している。中国は、地域間の連携を強化すれば、全国的に、より効率的な投資がもたらされるはずだと考えているのだ。さらに、連携することにより、中国の大都市で問題となっている人口過密や公害の問題の軽減にも役立つかもしれない。
ずっと昔から地理的・経済的な関係を非公式な形で築いてきた都市もあるが、中国が都市群の構築を国家政策に体系的に掲げるようになったのは、ご …
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