2050年には都市生活者の人口は現在よりも25億人も増加するという。世界の都市化が進み、多くの都市で人口密度が高まる一方で、二酸化炭素の排出量を削減し、気候変動の影響を緩和する取り組みが進められている。
今後数十年で、都市は経済成長の原動力となるだろう。しかし同時に、気候変動との戦いにおいても、都市は重要な役割を果たさなければならない。世界で最も人口の多い100都市が、世界の二酸化炭素排出量のおよそ5分の1を占めているからだ。
巨大都市(メガシティ)と呼ばれる世界最大級の都市の中には、すでに課題に立ち向かっている都市もある。ただ、都市によって効率性や今後の成長度合いには大きな差がある。そうした状況を見極めることで、排出削減のために焦点を当てるべき最善の方法が見えてくるはずだ。
より多くの人々が流入し、成長の余地が限られてくると、世界の都市は巨大都市と化していく。2020年、世界には34の巨大都市が存在する。 その大半が北半球のアジアや欧州、北米に位置している。
巨大都市とは1000万人以上の人口を抱える都市のことだ。上の地図では、各都市をビルに見立てて、最下階(1階)を1000万人として、その上に人口100万人ごとの階を積み重ねて都市の規模を表現した。
一部の巨大都市では急速な成長が続き、さらなる人口増加が見込まれている。2035年の巨大都市の予測人口を追加したのが上の地図だ。100万人ごとにビルの階を追加している。成長はアジアとグローバル・サウスで最も早くなっているのが分かる。
しかしながら、都市の年間の二酸化炭素排出量(上の地図の灰色の円の大きさで表現)を見てみると、急成長しているグローバル・サウスの巨大都市は、他地域の同規模の都市と比べて、1人当たりの二酸化炭素排出量がはるかに少ないことが分かる。消費量の多い生活スタイルを送る富裕層を多く抱える都市が、世界的な大気汚染を引き起こしているのだ。
裕福な巨大都市はその分、気候変動への適応にかけられる資金も豊富だ。気候変動に対して十分備えられると言っていいだろう。
以下は、1人当たりのカーボン・フットプリントが最も大きい都市である中国の深セン、米国のロサンゼルスとニューヨークの排出量だ。ロサンゼルスとニューヨークは、米国で最も人口の多い大都市圏である。
これら3つの裕福な大都市のそれぞれの1人当たりの二酸化炭素排出量は、人口で並ぶバンガロール、大阪(近畿大都圏)、モスクワのおよそ4〜8倍にもなる。
これらの大都市は、カーボン・フットプリントが小さかったとしても、途上国の多くの都市と同様に、気候変動の逆境に直面することになるだろう。
例えば、コンゴ民主共和国・キンシャサ特別州は中国・深セン市と同程度の人口だが、1人当たりの二酸化炭素排出量を比較すると、深センは不釣り合いなほど気候に影響を与えていることが分かる。
キンシャサはまた、深センよりも2035年までにはるかに成長すると予測されている。カーボン・フットプリントが小さいにもかかわらず、インフラの欠如と資金の不足により、急速な人口の増加が大きなリスクになっている。
レジリエンス (回復力)を高める機会がなければ、食糧不安や干ばつ、自然災害、異常気温といった多くの気候変動の危険に直面することになるだろう。
一方、深センは、カーボン・フットプリント削減の措置を講じている。低公害仕様のバスとタクシー数千台を導入し、グリーンビル(エネルギーや水、空調設備などにより環境性能の高い建物)の建築を推進し、産業界の炭素強度に上限を設けている。深センは現在、2022年に市の二酸化炭素排出量がピークに達すると予測している。中国全体よりも8年早いタイミングだ。
世界で最も裕福な巨大都市のうち、ほんの数都市が二酸化炭素排出を削減するだけで、世界的な気候変動の影響を大幅に緩和できる可能性がある。巨大都市に住む住民だけでなく、最も気候変動の影響を受けやすい地域に住む人々の影響も軽減できるかもしれないのだ。
国連によると、2035年までにさらに14の巨大都市が世界に誕生するという。その多くはアフリカとアジアだ。大都市圏に富とテクノロジーが集中するという事実は、世界中の都市が気候変動への取り組みをリードできることを意味する。
- 2020年と2035年の人口は国連経済社会局人口部のデータに基づく。『世界の都市化の展望 2018年度改訂版』(2019)
- 1人当たりのカーボン・フットプリントに関するデータは、モラン・D、金本圭一朗、ジボーン・M、ウッド・R、トーバン・J、セト・K・Cの論文に基づく。『1万3000都市におけるカーボン・フットプリント』(環境研究レター、2018)
- 世界の各都市のカーボン・フットプリントは、モラン他による論文の1人当たりのカーボン・フットプリント・データと国連の人口データを乗算することで算出した。
これらの研究と我々の方法の限界にご留意いただきたい。数値は完全に正確なものではないが、傾向を見極め、分析することは可能だ。
写真クレジット:ゲッティ(ニューヨーク市、ハイライン、深セン市)、アラミー(キンシャサ特別州)