欧州が先行する「グリーン水素」は化石燃料の代わりになるか?
水素はこれまでも、化石燃料の代替物質として常に注目されてきた。欧州各国では「グリーン水素」を精製し、各地に供給するネットワークの構築が始まっている。 by Peter Fairley2021.04.30
水素は魅力的な燃料だ。1キログラムの水素は、同量のガソリンや軽油に比べて約3倍のエネルギーを持つ。温室効果ガスの排出を抑えながら水素を安く精製することは、厄介かつ重要なさまざまな産業問題を解決する鍵となるかもしれない。
- この記事はマガジン「10 Breakthrough Technologies」に収録されています。 マガジンの紹介
現在、業者が提供している水素のほとんどは、天然ガスと高温の蒸気を組み合わせて精製したものだ。この手法はエネルギー集約型の手法であり、気候変動を引き起こす主要な温室効果ガスである二酸化炭素を大量に排出する。ただし、水に電気を流して水を構成要素に分解する、いわゆる電気分解で精製した水素の割合が、わずかながら増加している。電気分解も大量の電力を必要とするが、風力や太陽光などの再生可能エネルギーで発電した電力を利用すれば、有害な排出物を最小限に抑えられる。
再生可能エネルギーを利用して精製した、いわゆる「グリーン」水素は高価であるという欠点が残っている。天然ガス(4つの水素原子が、1つの炭素原子に結合した分子で構成される「メタン」を主成分としている)を原料とする水素に比べるとおよそ3倍のコストがかかるのだ。とはいえ、10年前の半分程度までコスト低下が進んでいる。風力や太陽光発電のコストが下がり、グリーン水素製造のスケールメリットが出てくれば、さらに安くなる可能性もある。そうなれば、グリーン水素は、脱炭素社会の中心的な燃料となるかもしれない。並行して、二酸化炭素回収技術の改善が進めば、大気中に大量の二酸化炭素を放出することなく、天然ガスから水素を抽出できるようになる。
水素の真価はその汎用性の高さにある。例えば石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料の代わりに燃やすこともできる。化石燃料を燃焼させると二酸化炭素が発生するが、純水素をタービンで燃焼させても発生するのは水蒸気だ。ただし、水素をタービンで燃焼させると高温になるため、有害な窒素酸化物も発生してしまう。そして水素のもう一つの用途は、燃料電池で水素と酸素を結合させて、電気分解とは反対に電力と、副産物である水を作り出すというものだ。この手法なら窒素酸化物が発生することはない。
水素は、直接燃焼させたり、燃料電池で発電することで、自動車、バス、鉄道、航空機などの乗り物を動かすことができる。また、水素を燃焼させると、製鉄所やセメント工場などの施設で二酸化炭素排出量を最低限に抑えながら熱を利用できる。さらに、グリーン水素は、製油所や肥料工場などで原料として使用している水素を代替することで二酸化炭素の排出量を削減できる。製鉄所や化学工場などの産業現場では、副産物の酸素を利用することもできる。
水素を精製する方法は確立しているが、水素を安全かつ安価に貯蔵し、輸送することは、いまだに困難だ。航空機のような有望な用途ではさらに難しい。 水素をそのまま貯蔵、輸送することが難しいことから、水素を二酸化炭素を組み合わせて扱いやすい液体合成炭化水素燃料を精製するという手法も有力となっ …
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