新しいスタートアップ企業オーキッド(Orchid)は、子作りを計画中のカップル向けに、生まれてくる子どもにアルツハイマー病、心臓病、1型および2型糖尿病、統合失調症、数種類のがんなどの一般的な疾患が遺伝するリスクを知る機会を提供している。
現在、広く利用可能な着床前検査では、将来生まれてくる子どもが単一遺伝子の突然変異によって引き起こされる特定の遺伝性疾患を発症するリスクがあるかどうかがわかる。しかし、嚢胞性線維症のうほうせいせんいしょう、鎌状赤血球症、およびテイ・サックス病をはじめとする、単一遺伝子疾患は比較的まれだ。
一方、オーキッドの検査では、複数の遺伝子の組み合わせによって引き起こされる、はるかに一般的な病気を調べる。その組み合わせは数百にのぼることが多い。カップルは自宅で唾液サンプルを試験管に入れて郵送すると検査を受けられる。オーキッドは両親のそれぞれのゲノム配列を解析し、調査対象の病気を持つ人と持たない人のデータセットを使用してリスクを計算する。その結果は、多遺伝子リスク・スコアと呼ばれている。
オーキッドは2021年内に、胚(受精卵)検査の提供も開始する予定だ。体外受精(IVF)で得た胚からいくつかの細胞を取り出し、そのDNA配列を解析し、同様のリスク・レポートを作成する。IVFをしているカップルは、すでに胚検査で染色体異常や単一遺伝子疾患について知ることができるが、オーキッドの検査で検査対象となる疾患数が大幅に増える。
オーキッドは、スタンフォード大学の科学者からの支援と、消費者向け遺伝子検査を提供する23アンドミー(23andMe)を含む投資家から450万ドルの資金を調達し、2021年4月に検査の提供を開始した。
「子どもを持つことは多くの場合、最も重要な選択ですが、両親は、生まれてくる子どもに遺伝的リスクがどのような影響を及ぼすかについてまったく知識がない状態で妊娠します」。オーキッドの創業者兼最高経営責任者(CEO)であるヌール・シディキはプレスリリースで述べた。
スタンフォード大学を卒業したコンピューター科学者のシディキCEOの考えでは、この検査によって例えば、生まれてくる赤ちゃんに糖尿病の発症リスクが高いことを知ったカップルは、その情報を利用して子どもの発症リスクを軽減できる。低糖食を取り入れたり、定期的な健康診断を受けたりできるかもしれない。もう一つの選択肢として、IVFをして、オーキッドの検査で糖尿病のリスクが最も低い胚を選ぶこともできる。
オーキッドの検査は、特に糖尿病、統合失調症、または同社が調べる他の疾患の一つを発症しやすい家系のカップルにとっては、魅力的な将来展望かもしれない。しかし、これらの病気の多くの遺伝的性質は複雑であり、まだよくわかっていない。
そのため多くの専門家は、多遺伝子リスク・スコアはまだ広く利用される段階にはないと考えており、オーキッドのような企業が不安を抱えるカップルにテクノロジーを誇大宣伝しているのではないかと懸念している。
単一遺伝子を超えて
一般消費者向けの多遺伝子検査の導入はほぼ避けられないように思える。利用可能なDNAデータの量が急増しているおかげで、統合失調症やその他の複雑な病気のリスク・スコアの算出は改良されている。研究者は数十万人の膨大な遺伝子データベースを使用して、糖尿病、うつ病、肥満、および特定のがんの発症リスクを推定するアルゴリズムを開発している。
別のスタートアップ企業、ゲノミック・プレディクション(Genomic Prediction)は、2019年に多遺伝子リスク・レポートの提供を開始し、IVFをしているカップルの胚を検査している …