米国でJ&J製ワクチン接種を一時中止、深刻な血栓
米国で、ジョンソン・エンド・ジョンソン製新型コロナワクチン接種を一時中止するよう求める勧告が出された。米国ではすでに約680万回分の同社製ワクチンが接種されたが、6人の女性が深刻な血栓症を発症し、うち1人が死亡した。 by Antonio Regalado2021.04.14
米国食品医薬品局(FDA)は、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)製の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの接種中止を医療提供者に勧告した。同ワクチンを接種した女性6人が深刻な血栓症を発症し、1人が死亡したのを受けての措置。
FDAは、今回の措置は一時的なものであり、副反応と見られる症状を調査する時間を要するため、と説明している。「念のため、このワクチンの使用を一時中断することを推奨します」とFDAは声明で述べた。
4月12日時点で、米国では約680万回分のジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンが接種されている。つまり、約100万回に1回の割合で深刻な血栓症が発生していることになり、「非常に稀な」症例だとFDAは述べている。
これに対し、すでにおよそ600人に1人の米国人が新型コロナウイルス感染症を直接の死因として、もしくは同感染症が要因となって亡くなっており、全体的には新型コロナへの感染リスクの方がはるかに大きいことが示されている。
問題は、個人としては新型コロナウイルス感染症のリスクが比較的低い、若い女性が血栓症を発症していることにある。
血栓症を発症した女性は18~48歳で、ワクチン接種後6~13日後に深刻な症状が表れた、とFDAは説明している。ニューヨーク・タイムズ紙によると1人が死亡し、もう1人が危篤状態だという。
つまり、ジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンを最近接種した人(特に女性)は、重い頭痛や腹痛、足の痛み、息切れなどに警戒する必要がある。リスクは2週間ほどでなくなると見られる。
米国政府は、今回の「脳静脈洞血栓症」と呼ばれる血栓はきわめて稀な症状であり、ヘパリン(血栓症の治療によく使われる抗凝血剤)がリスクをもたらす可能性があるとして警鐘を鳴らしている。米国疾病予防管理センター(CDC)の諮問機関が4月14日に会合を開き、症例を分析して「潜在的な重大性について評価する」予定だ。
ジョンソン・エンド・ジョンソンは声明を出し、「ワクチン接種者に関わる『極めて稀な疾患を把握』しており、ヨーロッパでのワクチン展開を見合わせることにしました」と述べている。
アストラゼネカ(AstraZeneca)が開発した新型コロナワクチンも血栓症との関連が指摘されている。同社のワクチンはヨーロッパで広く使用されているが、米国ではまだ認可されていない。ヨーロッパ当局は、若者は場合によってはアストラゼネカ製ワクチンを使用しないように勧告している。
ジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンとアストラゼネカ製ワクチンにはいずれも、アデノウイルスが使用されているが、これは無害な成分であるとされている。科学者たちは今後、アデノウイルスもしくはワクチンの別の要素が、血栓の原因となるような免疫反応を引き起こしているのかどうかを調査していく。
米国で広く接種されているモデルナ(Moderna)製とファイザー製の2種類のワクチンはmRNAワクチンであり、アデノウイルスは使用されていない。両社のワクチンはしばしば筋肉痛や発熱の原因となるが、血栓との関連は見られない。
FDAの勧告によって、米国の新型コロナワクチン接種会場でジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンの使用が減ることになるだろう。州や病院は、患者の年齢やリスク因子に基づいて同社製ワクチンの接種を継続することも可能だ。だが、ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると、数人の州知事のほか、CVSファーマシーやウォルグリーンズ(Walgreens)といった薬局チェーンが接種を中止する見通しだという。
ジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンは1回の接種で済むため、2回の接種が必要なモデルナやファイザーのワクチンより使い勝手がいい。しかしながら、ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンを巡っては製造過程でも複数の問題が発生している。副反応への懸念が出てきた現在、米国の新型コロナ対応において同社が果たす役割はさらに限定的なものになるかもしれない。
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- アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]米国版 生物医学担当上級編集者
- MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。