米国航空宇宙局(NASA)は2023年、月面探査車「バイパー(VIPER:Volatiles Investigating Polar Exploration Rover、揮発性物質調査極探査ローバー)」の打ち上げを予定している。将来的にロケット燃料の製造に利用できる可能性のある水氷を探して月面を走り回るバイパーには、月の土の上でしっかりと回転できる車輪、 地球外の地質を掘削できるドリル、気温がマイナス173度まで下がる月の夜に14日間耐えられるハードウェアなど、NASAが考えられる限りの最良の機器やツールを搭載する。
バイパーはほとんどがミッション専用の特注品で構成される一方で、ソフトウェアの大部分は誰でも目的を問わずに利用・改良・配布可能なオープンソース・ソフトウェアを使う。バイパーのミッションが成功した暁には、将来の月コロニーのための土台作りだけにとどまらず、宇宙産業がロボットの開発と運用手法に関する考え方を見直す転換点ともなるかもしれない。
宇宙ミッションについて話すとき、オープンソース技術を思い浮かべる人は少ないだろう。宇宙に打ち上げられ、目標地点に到達し、何百、何千、(あるいは何万)キロも離れた場所で、決められた一連のタスクをこなせるものを作るには、莫大な額の資金が必要だ。これを実現するためのノウハウは、秘密にしておきたくなるのが当然だろう。一方でオープンソース・ソフトウェアは、大抵はハッカソンや学生デモのような小規模プロジェクトのための、ちょっとしたプログラミングと結びつけて考えられる。ギットハブ(GitHub)などのオンライン・リポジトリで提供されているコードは、資金難やリソース不足を抱えるグループがコードをイチから作成する際の安価な解決策となることが多い。
しかし、宇宙産業は急成長を遂げている。大きな要因となっているのは、宇宙へのアクセス拡大の需要だ。そのためには、ソフトウェアをはじめとして、より安価で利用しやすい技術を活用することが求められる。
NASAのような、資金面に問題のない大きな組織にとっても、オープンソースのアプローチは結果的に、より強力なソフトウェアにつながるかもしれない。ボイジャー・スペース・ホールディングス(Voyager Space Holdings)の会長兼CEO(最高経営責任者)であるディラン・テイラーは、「現在のフライト・ソフトウェアは、宇宙では極めて凡庸なものと言えるでしょう」と話す。ボーイングが2019年に実施し、ソフトウェアの不具合によって失敗したスターライナー(Starliner)のテスト飛行がその例だ。オープンソースであれば、ソフトウェアに問題が発生したときに、第一線の科学者たちも、アマチュア開発者と同じように大規模なコミュニティの専門知識やフィードバックを活用できる。
基本的に、NASAにとって十分な性能があるものなら、地球外でロボットを操作しようとしている人々にとって十分に優れた性能を持っていると考えられる。世界中でますます多くの新興企業や新たな国家機 …