環境問題という大きな社会課題に対する人々の意識を、「マイボトル」という身近な行動に落とし込むことで少しずつ変えようとしている社会活動家がいる。ソーシャル・イノベーション・ジャパンの代表を務める、ルイス・ロビン敬だ。
- この記事はマガジン「Innovation Issue」に収録されています。 マガジンの紹介
ルイスらが立ち上げた「mymizu(マイミズ)」は、ペットボトルの代わりにマイボトルを持ち歩き、出先でも水を入れられる場所を紹介するスマートフォン・アプリだ。近年、海洋プラスチックゴミの問題でも注目が高まっているペットボトルの廃棄を根本的に減らすために、テクノロジーを使ってその消費から減らそうという取り組みである。アプリはスマートフォンの位置情報機能と連携しており、メニューから「給水マップ」を開くと、現在の自分がいる場所から近い「給水スポット」を地図で一覧表示してくれる。
給水スポットには、公園などの公共施設の水飲み場のほか、mymizuのコンセプトに賛同したカフェなどの商業施設も含まれる。ユーザーは給水スポットでマイボトルに給水するたびに記録をつけることができ、給水回数は「給水トラッカー」で確認できる。その表示は、「〇本のペットボトルを削減しました!」「〇円を節約しました!」「約〇kgのCO2を削減しました!」とユニークだ。
「mymizuの特徴は、共創型のプラットフォームだということです。私たちが一方的に情報を提供するのではなく、ユーザーと一緒に作っていくコンセプトなんですね。たとえば、給水スポットの多くはユーザーによる投稿で追加されていきます。みなさんに写真をアップロードしていただいたり、協力店を紹介していただいたりしてどんどん数は増えています」
ルイスは、mymizuの特徴についてこう説明する。
「このプラットフォームは、新しい技術を開発してスタートしたものではありません。すでに存在するインフラやモノをつなげているだけなんです。水飲み場がある公共施設は元からありましたし、水を提供してもいいという商業施設も以前から存在しました。mymizuはこういった給水スポットの有用性と、ペットボトルが消費されて捨て去られているといった社会問題を組み合わせて生まれたものです」
ペットボトルに入った水は、今や当たり前の存在だが、それほど昔からあったものではない。最初はヨーロッパから輸入した商品が多く、続けて国産の商品も流通するようになった。「日本では、20〜30年前は水を買う習慣がほとんどなかったとよく聞きますね。『水はみんなのもの』という意識もあったようです」とルイスも話す。
日本の水道水は非常に質が高い。世界各地を見てきて、現在日本で暮らしているルイスは、日々、あらためてそのことに気づかされているという。
「こんなにおいしく安全な水がどこでも飲めるのは、世界的に見ても珍しいんです。最近、ある地方自治体の水道局の方と話をしたのですが、水道水の水質検査項目は200項目※あり、ミネラルウォーターよりもはるかに多いそうです。これは驚くべきことで、もっと注目されていいことだと思います」
※法令で義務づけられているのは、ミネラルウォーターが39項目、水道水が51項目。自治体によっては、これを上回る200項目以上を検査している。
それほど質の高い水に恵まれている国であるにもかかわらず、実際には大量の水が店頭で販売され、消費されている。水以外の飲み物も含めると、1年間で実に250億本にもなり、ペットボトルを並べていくと地球を128周するほどの距離に達するという。そしてそこで問題となるのは、消費される飲料ではなく、容器となっているペットボトルだ。ペットボトルの耐久性は非常に高く、そのまま自然分解されるまでに400〜1000年以上の時間を要する。
とはいえ、日本ではペットボトルの分別回収は以前からされており、リサイクルは進んでいる印象がある。実際、統計も、おおむねその印象を …
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