未来を舞台にした映画につきものの乗り物といえば、「空飛ぶクルマ」だ。たとえば、『ブレードランナー』
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(1982年)や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)、そして『フィフス・エレメント』(1997年)など枚挙に暇がない。そんな夢の乗り物が、ここ日本でついに実現しようとしている。福澤知浩は、空飛ぶクルマの開発を手がけるスタートアップ企業、スカイドライブ(SkyDrive)の創業者兼最高経営責任者(CEO)だ。
“自動車大国”である日本だが、空飛ぶクルマの開発では、中国のイーハン(EHang)やドイツのヴォロコプター(Volocopter)といった海外の企業が先行している。しかし、2018年に設立されたスカイドライブは、わずか2年余りでこれらのライバルを猛追している。
「2020年の夏、有人のデモフライトを成功させました。1人乗りのプロトタイプで、機体のサイズは一般的な駐車場2台分に収まるようになっています。飛行時間は約4分間でしたが、おかげさまで国内外で大きな話題になりました」
この試験機「SD-03」は、人間のパイロットが操縦するが、コンピューター制御のアシストにより飛行を安定させている。仕組みとしては、いわゆるドローンの技術をベースに発展させたものだ。四隅にある駆動部には、それぞれ上下に2基のローターが配置されており、合計8個のモーターを採用している。この構造により、飛行の安定性に加えて、万が一モーターなどの一部で異常が発生しても、ブレなく飛行し続けることを可能にしている。
SD-03をベースに現在実用化を目指している空飛ぶクルマは、eVTOL(電動垂直離着陸)タイプであり、地上道路での走行機能は有していない。福澤は、騒音や操縦難易度、機体価格が、航空機よりも自動車に近く、自動車のように日常利用が可能な乗り物という意味で、「空飛ぶクルマ」と呼んでいる。ただ、福澤によると最終イメージは、最初は地上を走っているが、渋滞が発生したら近隣の離発着場に移動し、そこから離陸して空の道に入る。そんなSF映画のような乗り物なのだという。デモに成功したとはいえ、実用化まではまだまだハードルがある。その筆頭が航空当局からの認可の取得だ。具体的には、航空機の航行の安全を確保するための航空法や省令に基づく「型式証明」と「耐空証明」が必要だ。空飛ぶクルマは“クルマ”という名称ではあるが、実態は航空機の一種であり、現在のところは回転翼機として分類されている。そのため、航空機としての認可が必要になる。
当然ながらスカイドライブが開発する機体も、既存の航空機と同じレベルで安全性などの基準を満たす必要があり、かつ開発や設計、そしてアフターサービスに至るまで、すべてを明確に提示しなければならない。このハードルは決して低くない。
「実は戦後、日本の民間航空機が認可を取得したケースはほとんどありません。例外は1960年代の双発ターボプロップエンジン方式の旅客機『YS-11』などです。ただ、空飛ぶクルマの部品点数は他の航空機より圧倒的に少ないので、作業量は大きく減りますし、国も前向きに進めていただいております。引き続き、認可取得に向けて全力で取り組んでいきます。また、国境を越えて移動したり、輸出したりすることを考えると、グローバルな基準を満たす必要があります。とはいえ、当然ながら安全性は基本ですので、技術的にも理論的にもクリアすべく努力を続けているところです」
未来の乗り物として語られる機会が多い空飛ぶクルマの開発に、福澤が取り組むようになったきっかけは何だったのか。
ものづくりがもともと好きだった …
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