アンドリュー・エンはこれまでさまざまな活躍をしてきた。グーグル・ブレイン(Google Brain)チームの創設者として、あるいはバイドゥ(百度)の元主任科学者としてエンを知っている人も多いだろう。エンの講義を聞いたことがある人もいるかもしれない。エンは大人気のオンライン講義で、学生や好奇心旺盛なリスナー、ビジネスリーダーたちに機械学習の原理について教えてきた。
現在、エンは2017年に立ち上げた最新のベンチャー企業「ランディングAI(Landing AI)」で、学習に使える大規模データセットを有していない企業でも人工知能(AI)革命に参加できる方法を模索している。
3月23日、エンはMITテクノロジーレビューの年次イベント「エムテック・デジタル(EmTech Digital)」のバーチャル版で、自身がこれまでに学んだ教訓について語った。
※以下のインタビューは、発言の趣旨を明確にするため、要約・編集されている。
◆◆◆
—— 「AIファーストのビジネスを構築するにはどうしたらいいですか?」と質問されることは多いかと思います。そのような質問に対し、通常どのように答えていますか。
「それはしないでください」と答えています。チームメンバーに「皆さん、AIファーストでお願いします」と言ったら、そのチームはテクノロジーに集中してしまうでしょう。それは研究所であればすばらしいことかもしれません。しかし、私がビジネスを進める際には、顧客主導かミッション主導であることが多く、テクノロジー主導であることはほぼありません。
——現在、ランディングAIという新しいベンチャー企業を率いていますね。どのような企業なのか、また、なぜこの事業に取り組むことにしたのかを教えてください。
グーグルやバイドゥでAIチームを率いてから、AIがWeb検索やネット広告などの消費者向けのソフトウェアやインターネットに変革を起こしたことを実感していました。しかし私は、経済のさらに大きな部分を占める他のすべての産業にAIを導入したいと考えていました。そこで、さまざまな産業を見てきた結果、製造業に焦点を当てることにしました。
AIを活用するための準備ができている産業はたくさんあります。ですが、ある産業が他よりもAIを活用できるパターンの1つとして、ある程度のデジタル変革を経て、データが存在していることが挙げられます。そうしたことにより、AIチームがデータを使って価値を生み出すために活躍する機会が生まれます。
最近楽しみにしているプロジェクトの1つに、製造業の目視検査があります。製造ラインから出てくるスマホの写真を見て、それに欠陥があるかどうかを確認できるでしょうか? あるいは、自動車の部品を見てへこみがあるかを確認できますか? 消費者向けのソフトウェアやインターネットでは、10億人のユーザーがいて、膨大な量のデータがあるかもしれません。しかし、製造業で傷のあるスマホを10億台、いや100万台でさえ製造したことのある工場は存在しないでしょう。そうでなければ困りますよね。
そこで課題となるのが、どうすれば100枚の画像を使ってAIを機能させるのかということです。実は、それが可能であることは多いのです。小規模なデータでも非常に多くのことが可能となるということに何度も驚かされてきました。AIに関する大げさな宣伝、熱狂、広告はすべて巨大なデータセットを対象としています。ですが、課題が大きく異なる他の適用分野を開拓するためにも、私たちが成長すべき余地は大いにあると感じています。
——どのように実現するのですか?
CEO(最高経営責任者)やCIO(最高情報責任者)は、しばしば次のような間違いを犯します。「アンドリュー、我々はそれほど多くのデータは持っていない。うちのデータはめちゃくちゃなんだ。立派なITのインフラを構築するのに2年くれないか。そうすれば、AIを構築できるすばらしいデータを準備できるから」と言うのです。私はいつも、「それは間違いです。そんなことはしないでください」と返します。
まず、完全にクリーンで完璧なデータを持っている企業など地球上に存在しません。巨大テック企業でさえもです。それは旅のようなものです。すばらしいデータインフラを構築するために2年や3年を費やすということは、AIチームによるフィードバックが不足していて、どのITインフラを構築すべきかの優先順位を決めることができていないということなのです。
例えば多くのユーザーを抱えている場合、アンケート調査をしてもう少し多くのデータを得ることを優先すべきでしょうか?あるいは、工場で何かにセンサーが付いているとし …
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