生命誕生、「落雷」きっかけか? 生命探索に新たな視点
地球上の生命の誕生に落雷が関係している可能性が新たな研究によって示された。この研究は火星での生命探索にも影響を与えるかもしれない。 by Neel V. Patel2021.03.30
他の惑星における生命の探索は、料理との共通点が多数ある。水や温暖な気候、厚い大気、しかるべき栄養素、有機物質、それにエネルギー源など、すべての材料を1カ所に集めることはそれほど難しくないが、実際に処理できるプロセスや条件が揃わなければ、それらの材料をどうすることもできないからだ。
生命の探索には、時折一筋の「ひらめき」が必要となる。もしかしたら、そのひらめきは数兆回必要かもしれない。ネイチャー・コミュニケーションズ誌に掲載された研究論文では、およそ35億年前に地球上に初めて生命が登場した際、有機体にリンをもたらす上で落雷が重要な役割を果たした可能性が示されている。リンはDNAやRNA、ATP(アデノシン三リン酸:すべての生命体のエネルギー源)のほか、細胞膜のような生体構成要素の形成にも欠かせない物質である。
ネイチャー・コミュニケーションズ誌に掲載された論文の主執筆者で、イェール大学で研究に従事するベンジャミン・ヘスは、「今回の成果はたまたま得られたものです」と述べる。「地球に似た惑星での生命探査に、新たな可能性が開かれるでしょう」。
地球上での生命誕生に、落雷が欠かせなかったとの説が唱えられるのは初めてではない。落雷が生み出した有機物質に、他の物質とともにタンパク質を形成するアミノ酸などの前駆体化合物が含まれていた可能性が、複数の研究室の実験で示されている。
だが、今回の研究は、雷の役割を別の角度から論じている。科学者たちが常に考えている大きな疑問の1つは、地球上の初期の生命体がリンを手に入れた方法と関係している。数十億年前には生命体が使える水や二酸化炭素が大量にあったが、リンは不溶性かつ非反応性の岩石の中に閉じ込められていた。基本的に、リンは生命体にとって永久に手の届かないところにあった。
有機体は自分に欠かせないこの要素を、どうやって手に入れたのだろうか。これまでの有力な説は、隕石が「シュライバーサイト(schreibersite)」という鉱物の形で、リンを地球にもたらしたというものだ。シュライバーサイトは水に溶けるため、生命体が利用しやすい。だがこの説の大きな問題は、生命が誕生した35~45億年以上前には隕石の衝突が急激に減っていた点にある。地球が生命を維持するには、リンを含んだシュライバーサイトが大量に必要だった。また、隕石の衝突は、恐竜を絶滅させた説もあるように、生まれたばかりの生命を死滅させたり、地球に届いたシュライバーサイトの大部分を気化させるほどの破壊力を有してもいる。
ヘスたちは、そうした事情を解決する道を見出したと考えている。シュライバーサイトは、地球上に落雷があった際に形成される「閃電岩(フルグライト)」というガラス質物質にも含まれている。閃電岩が形成される際には、地上の岩石からリンを取り込む。閃電岩は水溶性でもある。
2016年にイリノイ州に落ちた雷から形成された閃電岩を収集したヘスたちの当初の目的は、そうした閃電岩のサンプルに保存されている極度の急速加熱の効果を調べるというシンプルなものだった。その際に、彼らは閃電岩サンプルの成分の0.4%がシュライバーサイトであることを発見した。
それをきっかけに、地球上に初めて生命が誕生した時期である数十億年前に、落雷でどれほどのシュライバーサイトが形成された可能性があるかを計算した。落雷の要因となる、古代の大気に含まれる二酸化炭素の量を試算した文献は豊富にある。二酸化炭素の傾向と落雷との相関性を把握したヘスたちの研究チームは、そのデータを使ってこの時代に雷がどれほど発生していたかを計算した。
ヘスたちは、数兆回の落雷から毎年110~1万1000キログラムのシュライバーサイトが生み出された可能性を導き出した。これだけあれば、生命体の成長や生殖を促すのに十分なリンが数十億年前に落雷によって生み出されたと考えることができる。その量は、隕石の衝突から生まれるであろう量よりもはるかに多い。
これは地球の歴史を理解する上で興味深い発見だが、他の星の生命について考える際にも新たな視点をもたらす。ヘスは、「隕石がほとんど衝突しなくなっている星でも、有効なメカニズムの可能性があります」と述べる。この「落雷による生命誕生(life-through-lightning)」モデルが起きるのは、浅瀬の環境に限られる。落雷によって放出されたリンが、大量の水の中で失われないような場所で、閃電岩が形成されなければならない。だが、必ずしもそれが悪条件になるとはいえないかもしれない。生命の起源を解明する宇宙生物学は海の発見にこだわっているが、今回の研究によって、全体が水に覆われていない火星のような星にも生命誕生の可能性が再び与えられる。
ここで明確にしておきたいが、今回の論文は、生命がリンを利用する上で、隕石の衝突が何の役割も果たしていないとは述べていない。ヘスは、熱水噴出孔など他のメカニズムが、隕石や落雷を持ち出す必要性をなくす可能性についても強調している。
そして、35億年以上前の地球の姿は今とは違っていた。雷が落ちてシュライバーサイトが形成されるのに十分な量の岩石が空気に触れ、有機体がリンを利用できる状態だったかどうかは完全には解明されていない。
そうした疑問点はヘスの通常の研究範囲からは外れているため、他の科学者たちに解明を任せるつもりだ。ヘスは、「とはいえ、閃電岩が注目され、こうしたモデルの実現可能性の調査がさらに進むきっかけになることを願っています」と述べる。「火星の探査が進んでいる今、私たちの研究が、浅瀬での生命探査実行の決定を下すヒントになればと思っています」。
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- ニール・V・パテル [Neel V. Patel]米国版 宇宙担当記者
- MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。地球外で起こっているすべてのことを扱うニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」の執筆も担当している。MITテクノロジーレビュー入社前は、フリーランスの科学技術ジャーナリストとして、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)、スレート(Slate)、ワイアード(Wired)、ヴァージ(the Verge)などに寄稿。独立前は、インバース(Inverse)の准編集者として、宇宙報道の強化をリードした。