KADOKAWA Technology Review
×
コロナ禍で相次ぐトラブル、政府のシステム構築はなぜ難しいのか?
Ms Tech | Courtesy Photos
生物工学/医療 無料会員限定
Why is it so hard to build government technology?

コロナ禍で相次ぐトラブル、政府のシステム構築はなぜ難しいのか?

新型コロナワクチンの配布や接触追跡など、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにおいて、大規模なテクノロジー・プロジェクトを成功させることの難しさが明らかになっている。状況を変えるには何をすべきか。専門家たちに話を聞いた。 by Cat Ferguson2021.04.01

政府テクノロジーにとって、長く厳しい状況が続いている。一部は大失敗し、政府、企業、そして失敗を穴埋めするために集まった非公式のボランティア集団による、際限ないパッチ修正を必要とした。

開発者は新型コロナウィルスに曝露した可能性のある人をプライバシーの侵害なく特定できるアプリを作る必要があった。悪名高い失業手当て申請サイトは、大量の失業者に耐えられずにクラッシュした。米国特有の断片化された保健医療産業を補うために、データ伝達の新たなパイプラインが必要になった。

その間、政治家やエンジニア、公衆衛生当局は、人々の情報を安全に保ち、さらに困難なことに、それが成功していることを国民に納得させなければならなかった。

米国で実際に政府テクノロジーをうまく機能させるためには、何が必要なのだろうか。国民のための健全なテクノロジー・インフラの基本とは何だろうか。

優れた政府テクノロジーの設計がなぜこれほど難しいのかを理解するため、5人の専門家に話を聞き、国民のための健全なテクノロジー・インフラの構築方法についてアドバイスを求めた。

分断されたデータ

シッド・ハレル

米国では、「政府」という言葉が指すものはさまざまです。この国には連邦政府のほかに50の州政府があり、全国各地でさまざまな役割を担う3000の郡、そして2万の市町村があるのです。

ある特定の地域にいる人がワクチン接種の対象かどうか、ワクチンの在庫がある場所で接種の予約が可能かどうかを確認するデータを、非常に多くの関連機関が部分的に有しています。データを共有してそれぞれのシステムを連携させるには、政府だけでなく、病院や診療所、薬局などすべてに対しての同意が必要になりますが、これはほぼ不可能です。

そう考えると、Webデザインの改善やWebにアクセスできない人への考慮は、実は簡単な部類の課題かもしれません。

アレクシス・マドリガル

多くの場合、テクノロジー自体はそう複雑ではありません。そのテクノロジーの根底にあるシステムが問題なのです。各州の通常業務では作成されないデータを連邦政府が必要としている場合、誰かがそのデータをまとめなければなりませんが、緊急時には誰もがやるべき仕事に追われているので、その優先度は低くなります。全国規模の医療システムがなければ、検査や症例の全体傾向を簡単に把握する方法はないのです。

レガシーなプロセスとシステム、新たなベンダー

シァ・ファン

私はレガシー・システムに携わる仕事を、「ソフトウェア考古学(software archaeology)」と呼んでいます。旧式のシステムは都市インフラができる前に建てられた家のようなもので、都市の上下水道や送電網に接続するようにできていないんです。そのシステムを30年にもわたって維持してきた人、100万行もある色分けされたスプレッドシートを更新している人を探し出す必要があります。

新たなシステムを導入する際、よく耳にするフレーズがあります。システムを導入する政府側は、何か問題が起きた時に「どこか1カ所に責任を負わせたい(one throat to choke)」ということです。デロイトやアクセンチュアのような大手ベンダーは、プロジェクトに必要なあらゆる人材を送り込んでくれます。しかし、失敗の責任を負う潜在的なリスクをアウトソーシングすることで、政府機関は技術的専門知識もすべて放棄することになります。問題が起きたら、その穴を掘ったベンダーに頼らなければなりません。そこから抜け出すことはできません。

ダン・ホン

デロイトやIBMに仕事を発注して解雇される人はいません。ベンダーも、これまでどおりのやり方で受注が続くなら、「使い …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. The winners of Innovators under 35 Japan 2024 have been announced MITTRが選ぶ、 日本発U35イノベーター 2024年版
  2. Kids are learning how to make their own little language models 作って学ぶ生成AIモデルの仕組み、MITが子ども向け新アプリ
  3. The race to find new materials with AI needs more data. Meta is giving massive amounts away for free. メタ、材料科学向けの最大規模のデータセットとAIモデルを無償公開
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る