アストラゼネカ製ワクチンの接種が欧州で一時停止、その理由は
ドイツやスペイン、イタリア、フランスをはじめとする欧州諸国で、アストラゼネカ製ワクチンの接種が一時的に停止されている。当局は、血栓が生じる可能性を懸念しての「予防的措置」と説明しているが、疑念と混乱が広がっている。 by Bobbie Johnson2021.03.16
欧州における新型コロナワクチンの接種はスムーズには進んでいないが、3月第2週から第3週にかけて、さらなる障害が発生した。アストラゼネカ(AstraZeneca)製のワクチンに血栓が生じる可能性があるとの懸念から、複数の国が同社製ワクチンの使用を停止したのだ。
3月15日、ドイツやスペイン、イタリア、フランスがアストラゼネカ製ワクチンの使用停止に踏み切った。前週にはデンマークやノルウェー、アイルランドなどが同様の決定を下している。ドイツのジェンス・シュパーン保健相は、同社のワクチンを接種された少人数の脳に血栓が生じたとの報告を受けての「純粋な予防措置」であると述べた。
他方で欧州医薬品庁(EMA:European Medicines Agency)は、接種された500万人のうち血栓が生じた例が30件ほどあったが、通常想定される割合より高いわけではないと述べている。EMAは3月15日の発表の中で、調査をさらに進める一方で、アストラゼネカ製ワクチンの接種を引き続き許可するとして、次のように述べた。
「血小板減少などの異常な特徴を部分的に伴いながら血栓の見られる現象が、ワクチンを接種した非常に少数の人で見られました。欧州連合(EU)では毎年、何千人もの人がさまざまな理由で血栓症を発症しています。ワクチンを接種された人々の血栓塞栓症の全体数は、一般的に見られる症例よりも多くはないようです」。
一方で、英国ではこれまでに、どの国よりもはるかに多い1100万回分のアストラゼネカ製ワクチンが接種されている。英国の保健当局は、同社のワクチンにより健康リスクが高まるエビデンスはないと述べている。
こうした一連の報告の深刻さ、ひいてはアストラゼネカ製ワクチンのリスクについて矛盾するメッセージが出されているため、人々の間には現状に対する懸念と混乱が広がっている。一部の専門家は、こうしたニュースによって、新型コロナウイルス(SASR CoV-2)に対抗するための接種活動の広範な取り組みに支障が生じる可能性を心配している。
「接種を続けてもいいという材料はあまりありません。政府は発表は出していますが、データはあまり出していないからです」と、英国のサウサンプトン大学でグローバルヘルス分野の上級研究員を務めるマイケル・ヘッド博士は語る。「ドイツでは血栓症のリスクがほんのわずかに高まっているように見えます。ですが、接種停止を示すようなデータは何もありません」。
欧州がまだワクチン接種を展開する初期段階にあることが、接種停止が取り沙汰されるひとつの要因かもしれない、とヘッド博士は指摘する。つまり、現在接種を受けているグループには、体がもっとも弱かったり、健康上のリスクが高かったりする人々が含まれている。アストラゼネカによると、自社の調査においては、血栓症は一般的に想定されるよりも低いとの結果が出ているという。
こうした状況が、接種リスクに関する広範な事情に影響を与えている。多くの欧州諸国ではワクチン接種をためらう傾向が高い。フランスでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの接種を予定している人の割合が40%しかないという調査結果も出ている。アストラゼネカ製ワクチンは特に、他社製品よりも多くの懸念や憶測を呼んでいる。
ドイツとフランスでは当初、65歳を超える高齢者にはアストラゼネカ製ワクチンを許可していなかった。そして南アフリカにおいて、新型コロナウイルスの国内変異種に対して効果が低いとのデータが提出されて接種が停止されると、いくつかの欧州諸国では同社のワクチンが不人気となった。
米国では、競合メーカー3社の製品には緊急使用許可が与えられたにもかかわらず、アストラゼネカ製ワクチンはまだ承認されておらず、さらなる治験の結果を待っている。しかしながら、十分な量のワクチン生産を目指す「ワープ・スピード作戦」の一環として米政府はすでに発注済みで、現時点でおよそ3000万回分が確保されている。
今回のワクチン停止期間は、今のところどれも非常に短い。フランス当局は3月16日にも新たな指針を発表するという。
「世界の国々は今、過度に慎重になっていますが、その代償を払うことになるでしょう」とヘッド博士は語る。「接種を停止してしまえば、ワクチンは人々の腕に届かなくなります。一般大衆の信頼の問題もあります。今回のワクチン停止で人々の抵抗感は増すでしょうか。人々は疑念を持ち続けるでしょうか。少しばかり政治論争の種になってきています」。
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- ボビー・ジョンソン [Bobbie Johnson]米国版 上級編集者
- サンフランシスコを拠点に、主に特集と紙の雑誌の編集を担当しています。前職は、数々の受賞歴があるオンライン・マガジン「マター(Matter)」の共同創設者。ガーディアン紙ではテクノロジー記者と編集者を務めていました。