小学1年生を担当する教師のアンディ・グラナドスは、ズーム(Zoom)を使った授業が始まる以前、教室での時間配分を考えるのに多くのエネルギーを費やしていた。「教材を配るのに10分使えば、教える時間が10分少なくなりますから」。グラナドスは言う。
そうした入念な計画も、今では贅沢なものになってしまった。近頃、グラナドスはもっぱらリモートで授業をしている。6歳と7歳の子どもたちが、小さな画面で映像を見ながら「sh」で始まる「shop」などの単語の発音練習の様子を見守っている。教え子たちと会うのは、授業がある日の2時間半だけ。にもかかわらず、子どもたちとの通信が途絶えてしまうことがよくある。その主な理由は、質の低いインターネット接続環境だ。
「本当に大変です。接続が復活しても、生徒たちは授業がどこまで進んでいるのか、教科書のどのページを教えているのかが分かりません」とグラナドスは話す。彼女が教えているワシントン州タコマのフランクリン・ピアス学区(日本版注:公立の幼稚園から高校までを運営)では、生徒の80%が低所得者層に属している。この学区ではタブレットやノートパソコンが全生徒に配布され、家庭には無線LAN機器も提供されているが、接続の問題は依然として続いている。
通信が途絶する問題は解決せず、グラナドスの授業は遅々として進まない。対面授業をしていた頃、今学期なら2月頃にはカリキュラムのほとんどを終えていた。だが今は、子どもたちがカリキュラムの内容を十分に理解しているかどうか、確信が持てない。「どう解決したらいいのか分かりません。とても苦しい状況です」。
パンデミックの最中にズームやグーグル・クラスルーム(Google Classroom)などのテック・プラットフォームによって教育が継続できていなかったら、米国の生徒たちがもっと悪い状況に陥っていたのは間違いない。しかし、全員がその恩恵を受けているわけではない。テクノロジーに大きく依存することで、すでに不公平なところに、さらに大きな格差が生まれているのだ。貧困家庭や地方に住む子どもたち、それに学習障害を抱える子たちが、バーチャル学習や、対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド学習に対する最大の障壁に直面している。教育関係者は、パンデミック前に最も弱い立場にいた、こうした生徒たちが大きな打撃を受けている状況に気を揉んでいる。
ただ、格差の一部でも完全に解消するための活動が、今回の危機で勢いづいているのは一筋の光明だ。
パンデミックの代償
米国の多くの学区では2020年の春から夏にかけて、大変な努力をしてタブレットやクロームブックを生徒たちに配布した。その結果、デジタル格差はある程度解消されている。だが、米国国勢調査局のデータを基にマッキンゼーが分析した2020年10月の報告書によると、黒人やヒスパニックの家庭は白人家庭に比べて安定したインターネット接続回線がなく、また通信機器も所有していないことが多いことが明らかになっている
つまり、オンライン学習に必要な基本的なツールを持たない子どもたちの大部分は、有色人種となる。「インターネットに接続できたとしても、低品質なことが多いのです」と報告書の共同執筆でマッキンゼーのグローバル教育実践部門のエマ・ドーン部長は話す。こうした格差が原因なのか、1週間に教師と直にやりとりした有色人種の生徒の割合は、白人の生徒に比べて半分に止まっている。
そのため、マッキンゼーの分析によると、白人の生徒が今学年の算数の学習内容を終えるのは4~8カ月遅れになるが、有色人種の生徒の遅れは6~12カ月になる可能性があるという。
調査によると、こうした不均衡の原因の一部は今でも見られるデジタル格差であり、また有色人種の生徒がリモートで学ぶ割合が高いためでもある、とドーン部長は言う。他の原因としては、居住地域での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染率の高さ、「戻っても安全だ」という当局への不信から、親がリモート授業を続けさせている可能性が挙げられる。
ロードアイランド州のプロビデンスに住む高校3年生のジェイダ・ウィリアムズは、個人所有のノートパソコンと学校から配布されたクロームブックを持ち …