初回優先か?2回厳守か?
ワクチン接種めぐり議論百出
新型コロナワクチンに対する需要は、供給量を圧倒的に上回っている。できるだけ多くの人にワクチンを行き渡らせるために、本来であれば2回接種が必要なワクチンを、1回目の人に優先的に接種するというアイデアが浮上している。 by Cassandra Willyard2021.03.05
米国における新型コロナワクチンの展開は、製造の遅れ、流通面における課題、奇想天外な吹雪によって妨げられ、遅れが出ている。そのため、需要が供給を圧倒的に上回っている状態だ。
その一方で、英国で広く蔓延している感染力の強い変異株が、米国でも足場を固め始めている。米国疾病予防管理センター(CDC)のモデリングによると、変異株は急速に支配株となり、感染者、入院患者、死者数を急増させることが予想されている。「ハリケーンがやって来ます」。ミネソタ大学感染症研究・政策センター(CIDRAP)のマイケル・オスターホルム所長は、1月31日に放映された米国の週間ニュース番組「ミート・ザ・プレス(Meet the Press)」に出演した際にそう語った。
人々の命を救うために、連邦政府は新たなワクチン戦略に素早く方針転換すべきだと言う公衆衛生の専門家が増えている。
米国で接種が実施されているのはファイザー製およびモデルナ(Moderna)製ワクチンの2種類で、3週間から4週間の期間を空けて2回の接種が必要とされている。しかし複数の研究から、1回の接種でも疾病に対する効果的な予防効果が得られることが示されている(ジョンソン・エンド・ジョンソンが開発した3番目のワクチンは1回の接種で完結するタイプで、2月27日に米国食品医薬品局(FDA)の承認を受け、3 月第1週には初の接種が開始される)。一部の専門家は、衛生当局は接種スケジュールに固執するよりも、できるだけ多くの感染リスクの高い人々に1回目の接種を実施することを優先すべきだと主張している。2回目の接種は感染の急増が収まり、より多くのワクチンが利用可能になってから実施すれば良いという。
2月23日に公開された報告書でオスターホルム所長と同僚らは、65歳以上の人々に対する1回目の接種を一時的に優先することで、3万9000人もの命を救えると計算している。「今後数週間、数カ月間で何千人もの重症化、入院、死亡を防ぐためにより効果的にワクチンを活用できる可能性のある期間は短く、そのチャンスは急速に閉ざされようとしています」という。
英国は昨年12月から同様の戦略を採っている。カナダのケベック州は1月に、2回目の接種分のワクチンを出し惜しみするのを止めて、できる限り多くの人にワクチンを接種し、2回目の接種までの期間を最大90日間に延長すると発表している。
だが、バイデン政権の上級顧問をはじめとする公衆衛生の専門家の多くは、単発接種戦略を支持するに足る十分なデータは存在しないと述べている。彼らは2回目の接種を先延ばしにすることで人々が感染に対して脆弱な状態となり、免疫反応を回避する新たな変異株を生じさせる可能性があることを懸念している。
流通の問題もある。ニューヨーク大学グロスマン医学部の疫学者で、バイデン政権の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)諮問委員会のメンバーであるセリーヌ・ガウンダー医師によると、今戦略を転換するとワクチン展開が複雑になると言う。「すでにとても脆弱な現在のシステムを、本当に壊してしまうことになります」。加えて、ただでさえ希薄なワクチンに対する世論の信頼を得られなくなる可能性もある。
「現時点の情報を鑑みて、我々は科学的に実証された第1回接種およびそれに次ぐ第2回接種による有効性および最適反応を堅持していきます」。バイデン政権の主席医療顧問を務めるアンソニー・ファウチ医師は、2月19日の記者会見でそう述べた。ホワイトハウスの新型コロナウイルス感染症対応上級顧問を務めるアンディ・スラヴィットもファウチ医師の意見に同意し、「これまでどおり、FDAは2回の接種を推奨しています」とそう述べた。
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