コロナ禍での出産が、私に教えてくれたこと
ビジネス・インパクト

What giving birth during a pandemic taught me about progress コロナ禍での出産が、私に教えてくれたこと

子どもを持つということは、本来は楽観的な行為だ。しかし、不況や賃金の低迷といった経済的な問題に加えて、昨年発生したパンデミックによって、米国のミレニアル世代はますます生まない選択肢を選ぶようになってきている。 by Susie Cagle2021.03.04

初めての子どもが生まれた朝、私は死についてばかり考えていた。

2020年の感謝祭(11月の第4木曜日)の1週間前、夫と私は生まれたばかりの赤ん坊と一緒にカリフォルニア州バークレーに避難していた。ケーブルニュースを見ていて、近いうちに全国の病院が、もちろん私が出産した病院も、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者で溢れかえってしまうことになると知ったからだ。

妊娠していることが分かったのは2020年3月。カリフォルニア州が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の蔓延を抑えるために最初の自宅待機命令を出す1週間前のことだった。夫の仕事は無期限停止となり、その数カ月後、私は気象記者としての仕事を失った。カリフォルニア州史上最悪となる火災シーズンが到来する直前だった。世界が危機に陥るとき、私たちの生活は喜びに包まれていた。

夫婦は何年もの間、子どもを持つのに最適な時期を待っていた。最適な時期とは、住まい、収入、医療を安定して得られるようになるまでということだ。他のミレニアル世代(1980年代以降に生まれた人たち)の人たちと同様に、私たちは親世代よりもはるかに長い間、子どもを持つことを先延ばしにしてきた。

現在のような社会的な変化にきっかけがあるとすれば、それは私たちが選択したというよりも、むしろそうすることが必要だったからだろう。私たちは大不況の中で大学を卒業し、借金を背負い、賃金の低迷に見舞われ、米国史上、どの世代が経験したよりも遅い経済成長に耐えてきた。ミレニアル世代が手にしている富は、米国全体の6%未満だ。団塊の世代が同じ年齢だった頃は、20%以上を支配していた。

米国の資本家の約束、つまり、各世代の人々が一生懸命働けば、子どもたちは自分たちよりも良い生活を送れるという期待は成立しなくなった。この基準で考えると、私たちの世代で進歩は止まった。そして、少なくとも一部はこうした経済的負担が原因となって、ミレニアル世代で出産する人の数は何百万人も減少し、子どもを持つ人々でも出産時期は遅くなっている。

パンデミックが発生してから1年近くが経過したが、少子化は悪化の一途をたどっている。パンデミックによる心理的・経済的ストレスは、若者が閉鎖された経済の影響をもろに受けているため、家族を子どもがいる生活の反対方向へ押しやっているようだ。不妊治療関連のモダン・ファティリティ(Modern Fertility)の調査によると、回答者の30%が新型コロナウイルスの影響で、家族計画に関する決定を変更している。そのうちの約4分の3にあたる人々は、子どもを持つ時期を遅らせる、または子どもを持つこと自体を考え直すと答えている。

シンクタンクのブルッキングス研究所(Brookings Institution)は、パンデミックが原因で2021年の出産数は30万~50万件減ると予測している。2020年と比べて、10%以上の減少だ。はっきりしないのは、この出産減少が、現在、生活を送ることに苦労しているにも関わらず親になることへの不安なのか、あるいは生まれてくる子どもたちの将来を懸念してのことなのか、またはその両方を反映しているのかということだ。

米国の資本家の約束、つまり、各世代の人々が一生懸命働けば、子どもたちは自分たちよりも良い生活を送れるという期待は成立しなくなった。

この複合的な要因を持つパンデミック下での少子化によって、間違いなく米国の出生率はさらに低下する。今の時点ですでに過去30年間で最低となっている。そして、多くの従来の進歩を測る尺度で考えると、出生率の低下は失敗の指標だ。

2020年初頭に妊娠した私たちの赤ちゃんは、希望に満ちた無邪気な気持ちで授かることができた最後の赤ちゃんの1人だ。当時はその先に起こる特殊な惨状を、まだ知らなかった。しかし、人間の手による生態系の崩壊を何年も記事にしてきた私は、将来待ち受けていることの片鱗は感じていた。

ここ数年、自分の住むカリフォルニアの近隣で、これまでよりも大きく、より速く燃え広がる山火事によって家が焼失していくのを目の当たりにしてきた。そして、それが起こったまさに同じ場所で、街が復興していく様子もだ。混沌とした状況でも、人々の持つ変化への意欲は疑いようのないものに感じられる。

非常に多くの仲間たちが、この混乱を新しい命に委ねないという決断をしている。彼らが間違っているとは言えない。子どもを持つことを選択するのは、本来は楽観的な行為のはずだ。世の中に対して希望を持っているか、新しい世代の一端を担う子どもを生み、育てることで希望が見つかるはずだ、という気持ちで選択するからだ。

初めての子どもが生まれた朝、赤ちゃんを生むのに完璧な時期があるとしたら、今はその時ではないと考えた。息子が耐え凌いでいくであろう将来のパンデミックや、火事や経済恐慌についても考えた。それでも、どういうわけか、息子が力強く生きていくだろうと確信している。息子に待ち受けている課題は、パンデミックの中で生まれた他の赤ちゃんと同様に、彼らが生まれた日のような危機の時代における進歩を再定義することだろう。

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本記事は、経済困窮報道プロジェクト(Economic Hardship Reporting Project)の支援を受けています。