本年度初開催の「Innovators Under 35 Japan」の受賞者が集う「Innovators Under 35 Japan Summit 2020」が2月19日、東京・日本橋で開催された。授賞セレモニーや特別講演に続くトークセッションでは、選考に携わった11名の審査員のうち3名を迎え、日本発のイノベーターたちへの期待を語り合った。
パネラーは、宇宙飛行士の山崎直子氏、科学技術振興機構 副理事の渡辺美代子氏、デロイトトーマツコンサルティング/デロイトデジタル執行役員の森正弥氏の3名。モデレーターは、MITテクノロジーレビュー[日本版]編集長の小林久が務めた。
社会に大きなインパクトを与える可能性を感じた
まず、受賞者への祝辞と、それぞれのUnder 35時代の経験談をパネラー各氏が披露した後、小林編集長は今回の審査過程や選考結果への感想を尋ねた。
コンピューター/電子機器の領域を担当した渡辺氏は、「期待をはるかに超える応募内容だった」と称賛し、「私が30代前半頃に感じていた、組織や社会に対する息苦しさをものともしないで、自分で自分の世界を築いている様子が見えたのが本当に驚き。私は、これが本当に将来よいものなのか分からない、そういうものを高く評価させていただいた」と語った。
また、自身が30歳の時にカナダのダルハウジー大学でポスドクをしていた時の研究環境と比較しながら「もう少し女性に応募してほしい」と話し、「この賞が男性だけではなく、女性も含めて、大切な発想を重視していることを、もう少しアピールできたらよいのではないか」と提案した。
輸送分野の、特に宇宙開発を含む領域の審査を担当した山崎氏は、応募者それぞれにしっかりとしたビジョンがあること、具体的な行動を起こしていること、各自の取り組みが社会に大きなインパクトを与えるを可能性を秘めていることを讃えた。
「宇宙の輸送というと分野がすごく狭いように思われますが、実は地上でも使われる技術が多い。例えば地上からのテレオペレーションなど、飛び越えたアイデアがあり、非常に刺激を受けていました」(山崎氏)
輸送分野の宇宙開発以外の領域を担当した森氏は、「輸送」というテーマが、少子高齢化・労働人口の減少に伴うドライバーの不足や、新型コロナ禍によるさまざまな活動のオンライン化などの社会課題に直結する領域であると指摘した。
その上で、「輸送分野に取り組む応募者の社会課題に対するシリアスな問題意識がすごく大きく、いかに真摯に取り組んでるかが伝わってきた。どの問題意識も理解できるからこそ、選び抜くのはとても大変でした」と話した。
「Under 35」であることの意味
その後、小林編集長は、イノベーションに必要な条件に話題を移した。これに対して森氏は、「果たしてわれわれがイノベーションを語ってよいのかと、少し疑問を持っている」と切り出した。
「今35歳の方は1985年生まれです。その方たちが12歳の時には、今のメジャーなインターネットのサービスがすでに起業していた時期なんですよね。小学生の時に、もうイノベーションに出会っている人たちで、そこからの世界は常に新しい新しいテクノロジーが生まれ、イノベーションが起き続けている。つまり、イノベーションが日常であったわけです」(森氏)
そうではない世界を生きてきた世代にとって、「Under 35の人たちの見てきた世界観を、いかに世の中で解き放たせるか」が重要なのではないかとの考えを披露した。
続いて小林編集長は、「日本は先進国だったのが、いろいろな観点で後進国になっているといった話がある一方で、課題に関しては先進国であるという、すこし皮肉な言い方もある」と話し、「日本発」のイノベーションの価値を問うた。
「課題先進国だからこそやりがいがある。イノベーションとよくいいますけれども、世界のいろんな分野において、現状を維持したい人たちもいる。そことせめぎ合うのではなく、いろんな人を巻き込むことが大切。だからこそビジョンが求められる。こういう機会で皆さん一堂にいられるので、いろんな分野と連携することで突破口を開いてくれることを期待しています」(山崎氏)
山崎氏は、「今回応募してくださった方のうち、最初からグローバルな視点で見ている方が多かったのが新鮮だった」と振り返り、「日本の課題も視野に入れつつ、これは海外で展開できる、あるいはもうすでに海外と手を組んでいる人もいた」と話した。
イノベーションを起こす人たちの世界共通言語
ここで小林編集長は、IU35のグローバルの仕組みについて説明を加えた。IU35の日本版を受賞すると、グローバル版へのエントリーになるということだ。受賞者は、このあとグローバル版を受賞する可能性がある。これを踏まえて、グローバルでイノベーターたちとどうコミュニケーションをとっていくべきかに話題が移った。
前職で楽天技術研究所代表を務めた森氏は、世界5カ国7カ所に研究拠点をつくり、30以上の国から100名以上の博士号取得者を集めて、研究開発および事業家を統括してきた経験の持ち主だ。その森氏によると、「イノベーションの共通言語のようなものが、世界で発見・シェアされている感じはある」のだという。そして、「そこへ自分の感覚をいかにチューニングしていくかが非常に重要」と話す。
さらに、COVID-19によって、「グローバルでやっていくこと」「イノベーションを起こすこと」についても大きな転換期を迎えているとも指摘する。
今までイノベーションの鍵は、サービスを提供する側とサービスを受けるカスタマーの側を明確に分け、カスタマーのエクスペリエンスをいかに変えるかが問われてきた。しかしCOVID-19によって、サービスを提供するために働く側、一緒に仕事をするビジネスパートナー、エッセンシャルワーカーのエクスペリエンスも大事だというふうに見方が変わったのだと森氏はいう。
海外での研究活動の経験を持つ渡辺氏は、別の観点でグローバルでのイノベーター同士のコミュニケーションについて指摘した。
「私は日本で話すときと海外に行って話すときは、言い方を変えないといけないと思っています。海外で話すときは、ビジョンや概念、これから未来はどうあるべき、そういう話がないと聞いてくれないんですね。海外の人の話を聞くと、いかに風呂敷を広げるかみたいな話がずっと続いて、具体的に何か決めるのは最後の10%ぐらいの時間で決めてしまう。これを日本でやると『具体的にどうするの?』といわれるんです。概念はいいから、具体的にどうするのかを問われるんですね」(渡辺氏)
山崎氏は渡辺氏の話に強く頷きつつ、「やはり人同士の信頼関係がとても大切。これは日本も海外も同じかもしれないんですけど、海外の人は特に、技術を見ているといいながらも、その人が信頼できるか、この人に未来を託せるかを見ている。信頼関係を築くには、きちんと自分の思うところを素直に、かつ愚直に示すことが大事だと思います」と、若きイノベーターたちにアドバイスを送った。
3月4日5時15分更新:発言内容の誤りを一部修正しました。