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ホームレスになったジャーナリストが、生活を取り戻すまで
Donny Jiang/Unsplash
For years, I’ve tried to work my way back into the middle class

ホームレスになったジャーナリストが、生活を取り戻すまで

ホームレスになり、逮捕され、ストーキング被害に合った女性ジャーナリストが、安定した生活を取り戻すために学んだことは。 by Lori Teresa Yearwood2021.03.03

この冬の初め、私は以前自分が逮捕されたソルトレイクシティの公園で長い散歩をしていた。逮捕されたのはホームレスだった頃、理由は川での水浴びだった。

散歩を始めてから30分くらい経つと、花崗岩でできた瞑想寺院の前まで来た。そしてこう思った。「3年半前、あの寺院の軒先で寝ていたんだわ」。

寺院の冷たい石の床の固い感触は、今でも思い出せる。段ボールと布きれでできた私の寝床のそばを通りかかった人たちが、私を見つめ心配や侮蔑、哀れみの混ざったような視線で襲ってきたのを思い出す。現在、そうした出来事は、まだ中流とはいえない新しい人生における自分の歩みを、再三にわたって評価するためのレンズだと分かる。

最近、よくこう考える。「今は、ちゃんとやってる? なんで、人生の負け犬でいいと思っていたの? 負け犬になる前のような、安定した生活に戻るのは、とっても大変なの! そもそも、そんなことできるの?」。

私は、ジム・クロウ法(1876年から1964年までにあった、人種差別的内容を含む米国南部各州の州法の総称)が幅を利かせていた1940年代に、パナマから米国に移住してきた黒人、バーノン・イヤーウッド=ドレイトンの娘だ。父は米国航空宇宙局(NASA)エイムズ研究センター(Ames Research Center)の微生物学者になるために移住した。父は、私を大学に通わせ、大卒の資格を取得させてくれた。父は米や豆を主に食べていたが、それは、自分亡き後も娘が安泰に過ごせるだけの財産を残すためだった。

しかし、私は立て続けに心に傷を負って中流階級という守られた領域から滑り落ち、2年間のホームレス生活を送った女でもある。こうした経験は、驚くほどよく目にする。シカゴ大学とノートルダム大学の調査によると、2020年6月から11月、パンデミック(世界的な流行)や限定的な救済しかしない政府のおかげで800万人近くの米国人が貧困に陥った。

貧困は、複雑な問題だ。世代や環境の問題の場合もあるし、一時的な可能性もある。それらの要素が絡み合っているケースもある。私の場合、貧困からの脱出は、精神面が銀行口座の残高と同じくらい重要な鍵を握っている。日々「これをやるんだ」と自分に言い聞かせている。「やり遂げるだけの力は、父から受け継いでいるんだ」と。

2017年の春、私はついに「仮初めの家(逮捕された公園にあった細い板のベンチ)」を出た。立ち直りの時期に初めて就いた仕事は食品スーパーチェーンのホール・フーズ(Whole Foods)の店員で、時給は11ドルだった。トイレ休憩のときにはいつも、20歳そこそこの上司が事前にセットしたタイマーを渡してきた。マイアミ・ヘラルド紙で頭角をあらわし、日曜版の特集記事を書いていた元ジャーナリストの私は、レジに立ちながら涙をこらえた。

2020年6月から11月、800万人近くの米国人が貧困に陥った。

善意ある人たちは、私のそれまでの成果に目を向けることで励まそうとしてくれた。彼らは「働いているし、家だってあるじゃない!」と言ってくれた。一番落ち込んだ言葉は「あなたをとても誇りに思う!」だった。

私は当時52歳で、そのような基準で自分の歩みを判断していなかった。それよりも、どれほど人生から転落してしまったかという基準で判断していた。わずか数年前、オレゴン州にある約1万2000平方メートルの牧場で馬を飼っていたのに、部屋を借りられるほどの稼ぎがあったからといって、それが何だというのだろう?

PTSD(心的外傷後ストレス障害)が自分自身を最も衰弱させる症状のひとつは、自分が一番傷ついた物事を避けるようになることだ。私の場合は、自分自身を避けることだった。

私は恥ずかしい気持ちと、自己嫌悪に満ちていた。かつて数十万ドルの株を持っていた自分が、人生の敗者になったことに対する憎しみ。「彼ら」の一員となってしまったことへの憎しみ。

私はかつて、日用衛生用品を受け取りに行っていたホームレス支援センターの受付の男に、日常的にストーカー行為を受け、暴力を振るわれていた。私は涙ながらに、それをセラピストに打ち明けた。

「あなたはそうした経験を、とてもうまく自分から遠ざけましたが、そうした経験を愛せなければ完全に立ち直れないでしょう」とセラピストは言った。

セラピストとの面会を何度も重ねるうち、私は徐々に、かつて絶望的だった自分に大きな同情を感じるようになった。そして街中で彼女の隣に座り、抱きしめ、こう語りかけている姿を想像した。「本当にごめんなさい。もう絶対にあなたを遠ざけることはしないわ。これからは、いつも一緒よ」。

私は少しずつだが、着実に回復した。そうした支援は政府やコミュニティが与えてくれると期待していたが、そうではなかった。私の人生を心配してくれた、見知らぬ数少ない人たちからもたらされたのだ。貧困からの脱出を支援するはずの我々の社会の仕組みは、脆弱で欠陥だらけだ。だから、私は別の場所を頼るようになった。

例えば、ホームレス脱出後の初めての住まいは、ソルトレイクシティの小さな非営利団体の代表が与えてくれたのだ。当時、行政による住まいの割り当ては、1年から2年待ちの状態だった。元服役囚の女性たちが生活する家があり、彼女たちの世話をするという条件でその家の一室を提供してくれたのだ。

その建物は資金面で問題が発生し、6カ月後に閉鎖された。だが、近所の集まりで本当に偶然知り合った女性が、エアビーアンドビー(Airbnb)用の部屋をシェルターとして1カ月間無料で貸してくれた。その後、彼女の家の小さな寝室を1カ月400ドルで貸してくれた。相場よりも100ドルほど安い家賃だった。私は、前に進み続けるためには心の傷を癒やすセラピーが必要だと思っていた。時給11ドルのレジ係の仕事は、日々の支出に加えて、セラピー代をちょうど賄えるくらいあった。

人生が破綻しそうな人に何かひとつ助言できるとしたら、「この世界がどんなことを突きつけて来ても、自分を断罪するのはやめましょう。心の傷や、その傷が心理や肉体に与える影響について知りましょう」というようなものだろう。

多くの面で、現在の私の人生は再度「成功している」と見なされるかもしれない。仕事はどんどん自分に適しているものに変わってきており、それが今では私の目標だと思っている。その目標とは、自分も含めて、世間に届けるべき声を届けることだ。現在はフリー・ジャーナリストとして毎日活動しており、特に、心の傷という意識を自分の記事に織り込むことを専門としている。貧困や経済的な不安定をジャーナリスティックに追求する経済困窮報道プロジェクト(Economic Hardship Reporting Project)と契約を結んでいて、ワシントン・ポスト紙やニュース・サイトのスレート(Slate)、ガーディアン紙といった大手メディアにも記事が掲載されている。ソルトレイクシティに借りている寝室がひとつあるアパートがお気に入りで、イギーとカナブと名づけた2匹の猫と暮らしている。

だが、今回の記事を公園での散歩という何気ない場面から書き始めたのには、理由がある。はたから見れば、散歩はごく普通の行動に思えるだろう。だが、私にとって、あの公園で起こったさまざまなことについて自分を恨めしく思わずに歩くことは、今まで獲得したあらゆる仕事と同じくらいの成果なのだ。あの白い石造りの瞑想寺院の前に立ち、その床に寝ていた過去の自分のことを考えた時、私は過去の自分を受け入れたのだ。

それは、進歩なのだ。

◆◆◆

本記事は、経済困窮報道プロジェクト(Economic Hardship Reporting Project)の支援を受けています。

著者のローリ・テレサ・イヤーウッドは、経済困窮報道プロジェクトでホームレスと住居問題を専門に取材している。定期的にスレート(Slate)に寄稿しており、「昨日の夜、どうやって寝たの?(How Did You Sleep Last Night?)」シリーズを連載している。また最近は、ワシントン・ポスト紙、ガーディアン紙、サンフランシスコ・クロニクル紙、アメリカン・プロスペクト誌など多数のメディアで記事が取り上げられている。

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