米でも「動かないシステム」
ワクチン予約サイトで混乱
米国疾病予防管理センター(CDC)は新型コロナワクチン接種を効率よく予約・管理するためのWebサイト「VAMS」を、総額4400万ドルで大手コンサルティング会社に発注した。だが、トラブルが多発し、システムの採用を見送る州や民間の別のシステムに切り替える動きも出てきた。 by Cat Ferguson2021.03.01
新型コロナウイルス・ワクチンを接種するためにシステムにログインしたメアリー・アン・プライスは、3日後に近所にあるウォルグリーン薬局での接種を予約できた。だが翌日、彼女が目を覚ますと、予約はキャンセルになったというメールが届いていた。
プライスは再びシステムにログインし、その日の午後に地元の外科病院でワクチン接種を受けられることを知った。
「それで病院に行ってみましたが、ワクチン接種はできないと言われました。彼らは自分たちの病院で働くスタッフにだけ接種をしていたのです」。プライスはこう話す。3回目の予約を入れようとした彼女は、システムからブロックされてしまった。システムでは、彼女はすでにワクチン接種を受けている最中という状態になっていた。
70歳のプライスはウェストバージニア州の上院に勤務しているため、エッセンシャルワーカーとして扱われている。同州はワクチン接種の展開に関して称賛されており、これまでに住民の10%が最低1回の接種を受けている。
プライスと同じように、混乱を引き起こしているさまざまなシステムによってワクチン接種をなかなか受けられず、不満を抱いている米国民は数百万人に上る。一部の州では、一般消費者向けのイベント予約サービス「イベントブライト(Eventbrite)」、あるいは年季の入った政府システムを使ってワクチンの予約を受け付けている。だが、プライスが使っていたのは、こうしたシステムではなく、4400万ドルの予算が投じられ、著名なコンサルティング企業であるデロイトが新たに開発した、米国疾病予防管理センター(CDC)の「VAMS(ワクチン接種管理システム)」と呼ばれるWebサイトだった。
VAMSを採用している数少ない州の住人でなければ、その名前を耳にしたことはないかもしれない。VAMSは、雇用主、州の公的機関、病院、個人による新型コロナワクチン接種の日程調整、在庫管理、報告管理のすべてをまかない、誰もが無料で利用できるものになるはずだった。
だが、「VAMSは口に出すのもおぞましい言葉になってしまいました」。サウスカロライナ州保健局のマーシャル・テイラー局長は、1月に州の議員らにそう述べている。テイラー局長は、VAMSがこれまで、自分たちの予防接種の取り組みにどれだけ深刻な悪影響を及ぼしているかを説明した。サウスカロライナ州をはじめとする、一連の問題や不具合に直面した複数の州は、独自の解決策を打ち出すか、予算を投じて民間のシステムを利用するという選択をしている。
コネチカット州やバージニア州の病院に勤務する人々によると、VAMSは不作為に予約がキャンセルされたり、登録の信頼性が低かったり、記録を入力するためのダッシュボードから職員が締め出されたりといった問題があり、評判が悪いという。CDCは一部の問題をユーザーの操作ミスによるものだとしながらも、複数の欠陥の修正に取り組んでいることを認めている。
前出のプライスは、ワクチン接種はできないと説明されるまで、病院で45分間待たされたという。「彼らはVAMSに掲載されているワクチン接種が可能な施設のリストから自分たちの病院を削除しようとし続けているものの、その度にリストに再掲されてしまうとのことでした」とプライスは言う。
「私たちにはこういった診療所を運営するための手段が必要でした」
米国におけるワクチン展開の混乱については、十分な裏付けがなされている。各州に期待されていた数の半分しかワクチンが行き渡っておらず、診療所では供給の信頼性の低さから1回目の接種のキャンセルが起こっており、人々はWebサイトに登録するために「更新」ボタンをひたすら押し続けたり、追加のワクチンがあることを願って予約なしで診療所の外に列を作ったりという状況になっている。
CDCはこうなることを予見していた。
「VAMSは、設備が整っていない州や地域のニーズを満たすためのものでした」。こう説明するのは、保健情報システムの構築支援を手がけるHLNコンサルティング(HLN Consulting)のノーム・アルツト社長だ。
「こうした診療所を運営し、人々の日程調整をして確実に2回目の接種を受けてもらうようにするための手段が必要だったことは明白だったのです」とアルツト社長は話す。
新型コロナウイルスの世界的大流行の初期段階で、CDCはワクチンが承認された後に大規模なワクチン接種を管理するためのシステムの必要性に関する骨子をまとめていた。そこでは、登録、日程調整、在庫追跡、予防接種報告など全体的な効率化が求められていた。
2020年5月、CDCは連邦政府の巨大請負業者であるデロイトと、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン分配および接種追跡」を管理するため、1600万ドルの随意契約を結んだ。同年12月、デロイトは同プロジェクトの予算としてさらに2800万ドルを受け取っており、この時も入札はなかった。この契約には、予算が最大で3200万ドルまで増加する可能性があることが明記されており、合計で4400万ドルから4800万ドルを納税者が負担する形になっている。
デロイトはなぜ随意契約を結ぶことができたのだろうか。契約によると、デロイトは同ツールの構築を任せられる唯一の「信頼できる供給元」だという。
現実には、多くの州が無料のVAMSを利用せず、予算を投じて他の事業者を利用するという選択をしている。州によっては基本的に何もせず、計画の策定が各郡の保健局任せになっているところもある。コンサートや会議などで利用されるWebサイトであるイベントブライトを利用して各郡の病院がなんとか日程調整をしているフロリダ州のような状況は、まさにそうしたことが原因となって生まれている。
「各公衆 …
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