米国航空宇宙局(NASA)の探査機「パーサビアランス(Perseverance)」は2月18日、火星に無事着陸した。探査機は火星の大気への突入に耐え、ジェゼロ(Jezero)クレーターへの軟着陸に成功した。着陸直後、探査機は移動時に使用される「危険回避カメラ(Hazard Avoidance Cameras)」で撮影した画像(下図)を地表から送信した。画像は防塵カバーによって一部が見えない状態になっている。
パーサビアランスは2月18日の午後、火星の大気圏へ降下する「恐怖の7分間」と呼ばれるプロセスを開始した。遮熱材により探査機は灼熱の高温に耐えた。問題なくパラシュートが開き、探査機は安全な着陸場所を探してそこに向かい、降下装置により地表まで降下した。NASAは2月18日午後3時55分(米東部時間)に着陸の成功を確認した。降下の間の7分間で、パーサビアランスの移動速度は時速約1万9000キロからわずか時速約2.7キロまで減速した。
地球と火星の距離により、NASAの管制センターと探査機の間の通信には11分の遅れが生じる。つまり、着陸の全過程は自律的に成し遂げる必要があった。降下中、探査機に搭載されたシステムが地表に危険がないか確認し、探査機をあらゆる脅威から遠ざけた。
パーサビアランスの前の代の火星探査機である「ソジャーナ(Sojourner)」、「スピリット(Sprit)」、「オポチュニティ(Opportunity)」および「キュリオシティ(Curiosity)」は、火星の現在と過去の姿を説得力を持って明らかにしてきた。科学者らは、火星がかつて湖や川の多い温暖な惑星だったことや、火星に複雑な有機物が存在することを知った。これらの重要な要素の組み合わせは、太古の火星が微生物が生存できる環境だった可能性を示唆している。
パーサビアランスの主な目的は、そのような太古の生命の証拠を探索することだ。探査機は23台のカメラに加え、生命の痕跡(アミノ酸や脂肪酸など)や火星にかつて生命が存在したことを示す岩石内の巨視的証拠を探して特定するよう設計された多数の機器を搭載している。また、火星の岩石にドリルで穴を開けて試料を収集し、2030年代に地球に持ち帰って研究室でより詳しく調査する予定となっている。それは、史上初の火星からのサンプルリターン(試料回収)ミッションとなる可能性がある。
着陸場所のジェゼロクレーターは、かつて湖底だった場所であり、化石化した物質や他の生命の証拠が保存されている可能性のある沈殿物が堆積されたかもしれない古代のデルタ地帯だ。管制センターが今後数週間をかけて機器のテストと調整をした後、今年の夏には探査車がジェゼロクレーターの本格探査を開始する。
パーサビアランスは他のいくつかの非常に興味深い科学技術的な実証も実施する。二酸化炭素を酸素に変える「モキシー(MOXIE)」と呼ばれる装置は、将来このテクノロジーを使って火星のコロニーを維持できるのかどうかを明らかにする。「インジェニュイティ(Ingenuity)」という小型ヘリコプターは、火星や太陽系の他の場所での飛行ミッションの可能性を証明するかもしれない。
パーサビアランスは2つのマイクも搭載しており、探査機の大気圏降下時の音、ミッション中の火星の景観の音や地表の風の音を集めることになっている。
パーサビアランスは2020年の夏、3つの新たな火星ミッションの1つとして打ち上げられた。他の2つのミッションであるアラブ首長国連邦(UAE)が送り込んだ周回機「ホープ(Hope)」、中国が打ち上げた「天問1号(Tianwen-1)」はいずれも2月8日の週に、火星の周回軌道に到達した。ホープは周回軌道にとどまり火星の大気の調査をするが、探査車を搭載している天問1号は5月に火星への着陸を試みる。