ビル・ゲイツと
気候ソリューショニズムが
地球を救えない理由
ビル・ゲイツが新著において、テクノロジーによる気候変動問題の解決に焦点を当てていることは、解決がより難しい政治的障壁を避けるためのように思える。気候変動が引き起こす症状に対処することを目的とした大規模介入は、新たに別の問題を生み出す可能性がある。 by Leah C. Stokes2021.02.24
ビル・ゲイツの新著である『気候災害を避ける方法(How to Avoid a Climate Disaster、未邦訳)』は、テクノロジー中心のアプローチで気候危機を理解しようとする。ゲイツはまず、人類が毎年生み出す510億トンの温室効果ガスを取り上げる。そして、この温室効果ガスをカーボン・フットプリントの規模で各部門に分類する。電力、製造、農業に始まり、運輸や建築へと話を進める。全体を通して、ゲイツは気候変動の複雑な課題に巧みに切り込み、便利なヒューリスティック手法で大きな技術的問題(セメント)と小さな技術的問題(航空機)を区別できるように読者を導いている。
2015年に開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で、ゲイツと数十人の富豪が、ベンチャーキャピタル基金、ロビー活動団体、および研究の取り組みを連結させた投資ファンドである「ブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ(BEV:Breakthrough Energy Ventures)」を立ち上げた。ゲイツをはじめとする投資家たちは、米連邦政府も民間部門もエネルギー革新への投資が不足していると訴えた。ブレークスルー・エナジーは、次世代の原子力テクノロジーから牛肉風味の代替肉まで、あらゆるものに資金を提供し、このギャップの一部を埋めることを目指している。このベンチャーファンドによる10億ドルの第一弾投資では、植物由来の代替肉を使ったハンバーガーのメーカーであるインポシブル・フーズ(Impossible Foods)などが、すでに初期の成功を収めている。ブレークスルー・エナジーのベンチャーファンドは2021年1月に、第2弾として同規模の投資を発表した。
これと並行した取り組みである国際協定の「ミッション・イノベーション」は、参加国(欧州連合の行政機関と中国、米国、インド、ブラジルを含む24カ国)に、2015年以降、毎年46億ドルをクリーンエネルギーの研究開発に追加提供するように約束させたと発表した。
ゲイツの新著は、このようなさまざまな取り組みを中心に据えて、テクノロジー楽観主義の視点で語られる。「気候とテクノロジーに関して学んできた知識から、楽観的に考えています。(中略)迅速に行動すれば、気候の大惨事を避けられます」とゲイツは冒頭の数ページで記している。
他の多くの人が指摘しているように、必要なテクノロジーの多くはすでに存在する。すなわち、今すぐ実行できることは数多くある。ゲイツはこの点に異議を唱えてはいない。しかし、新著では、より大規模な脱炭素化を達成するためにまだ克服しなければならないとゲイツが考える技術的課題に焦点が当てられている。ゲイツは「政治学者というよりはエンジニアの視点で」考えるとし、政治的障壁に費やす時間は少ない。それでも政治は、気候変動に関するあらゆる厄介な状況の中で、進展を阻んでいる主要障壁だ。また、エンジニアは、複雑なシステムではフィードバック・ループがうまく働かない可能性があることを理解する必要がある。
政策
SF作家のキム・スタンリー・ロビンソンは、政治学者の視点で考える。ロビンソンの最新小説『将来のための省(The Ministry for the Future、未邦訳)』の冒頭の設定は、今からわずか数年後の2025年だ。大規模な熱波がインドを襲い、数百万人の死者が出る。この小説の主人公であるメアリー・マーフィーは、将来の世代の利益を代表し、気候変動の解決策を支援するため世界各国の政府間調整を試みることが任務の国連機関を運営している。この小説の中心テーマは、 …
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