ワクチンを打っても
マスクを外せない理由
米国で新型コロナワクチンの接種が始まっているが、パンデミックが収束するかどうかは分からない。ワクチンを受けた人が無症状感染してウイルスを他人に感染させる可能性についてはまだエビデンスがなく、もしそれが可能であれば、ウイルスはいつまでも居座り続けることになる。 by Antonio Regalado2021.02.08
アルゼンチンのジャーナリストであるセバスチャン・デ・トーマは昨年、ファイザーによる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)用ワクチンの治験に参加し、8月と9月に接種を受けた。本物のワクチンを打たれたのか、それともプラセボ(偽薬)を打たれたのかはいまだにわからないが、1月31日の日曜日、治験をしている医師から連絡が入った。
医師は、新型コロナウイルスの検査を定期的に受ける気はないかと提案してきたのだ。キャビファイ(Cabify、スペインのライドシェア・サービス)による送迎付きでブエノスアイレスにある軍の病院まで行き、「車の窓から私の鼻腔を綿棒で拭う。ただそれだけです」という。
ファイザーがアルゼンチンと米国の一部の被験者へ追加のウイルス検査を提案しているのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関してまだ明らかになっていない重要な疑問に答えを出そうという試みの一環だ。ワクチンを接種した人が無症状感染する確率はどれくらいなのか、また、ワクチンを受けた人たちもウイルスを人に感染させることはあるのだろうか。
感染者からさらに感染が広がる「前方感染」をワクチンで食い止められるかどうかは、今後パンデミックがどうなるのか、いつごろ元の生活に戻れるのかを決定付ける重要な要素となる可能性が高い。現時点では、ワクチンで感染を減らすことはできるが、完全に阻止することはできないという意見が優勢だ。
「まだわかりませんが、重要な疑問です。その答えによって、マスク着用を続けるかどうかや、人々の行動に影響が出てきますし、レストランや映画館へ安心して行けるようになるかなど、ワクチンで期待される全体的な恩恵に関わってくるからです」。米国で複数のワクチン治験を実施している「COVID-19予防ネットワーク」の運営を率いるローレンス・コーリー教授はそう話す。
サイレント・スプレッダーの謎
「ワクチンにできることは、3つあります。感染を防ぐこと、前方感染を防ぐこと、そして発症を抑えることです」と解説するのは、コロンビア大学の公衆衛生研究者であるジェフリー・シャーマン教授だ。完璧なワクチンは、「殺菌(sterilizing)」免疫というものを作る。それが作られれば、ウイルスは体内で足場を築くことすらできない。だが、一部のワクチンは低レベルの感染を許し、体に免疫をつけさせて、発症を抑える。その場合は一定量のウイルスが体内に蓄積され、それが他の人に感染する可能性もあるかもしれない。
ワクチンで感染をどこまで阻止できるのかは、今のところ不明だ。それを測るのはかなり面倒で、巨額の資金がかかるためだ。ファイザーやノヴァヴァックス(Novavax)、モデルナ・セラピューティクス(Moderna Therapeutics)などの製薬会社は昨年、新型コロナワクチンの大規模な研究を開始し、ワクチンが新型コロナ感染者の重症化や死亡を防ぐことができるかどうかを調べた。その結果は驚くべきものだった。ワクチン接種を受けた人の中で、集中治療室に入ったり人工呼吸器が必要になった人はほとんどいなかったのだ。
だがその時、ワクチンの「間接的な」効果、すなわちワクチンで前方感染を防げるかどうかに …
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