宇宙の岩石をはるか彼方から観測するのはとてもすばらしいことだ。しかし、近づかなければならない場合もある。
太陽系はどのようにして形成されたのか、いかにして地球に生命がもたらされたのか、近隣の他の世界に果たして生命は存在しているのか。こういった宇宙科学最大の疑問は、物質を直接研究することによってのみ本当の回答を得られる。つまり、サンプルを入手し、研究のために地球に持ち帰る必要がある。「サンプルを持ち帰った分だけモデル化ができます」とマサチューセッツ工科大学(MIT)の地球生物学者であるタンジャ・ボサック准教授は語る。「私たちが考えている宇宙の仕組みについてテストし、検証するには、サンプルが役に立ちます」。
2020年は、いわゆるサンプルリターン・ミッションにとって当たり年であった。米国航空宇宙局(NASA)の探査機「オサイリス・レックス(OSIRIS-REx)」のミッションでは小惑星ベンヌ(Bennu)への着地に成功し、地球に持ち帰るための、文字どおりあふれるほどの量の試料が採取された。オサイリス・レックスは、2021年5月に地球へ帰還する旅が始まる予定である。2020年12月には、日本の「はやぶさ2」ミッションが小惑星リュウグウのサンプルをついに持ち帰った。中国は12月後半に、44年ぶりとなる月の土壌の持ち帰りに成功した。
わくわくするようなサンプルリターン・ミッションは、まだまだ控えている。今から数週間後には、2020年に打ち上げられた探査車「パーサビアランス(Perseverance)」が火星に着陸し、太古の(または現在の)生命の証拠を求めて地表を探索することになっている。パーサビアランスは後日、地球へ持ち帰るためのサンプルの採掘と保存も実施する。
中国は2023年に「嫦娥6号」で月の岩石を再び地球に持ち帰ることが期待されている。ロシアも同様のミッションを2027年に「ルナ28号(Luna28)」で実施する。両国とも、10年以内に火星へのサンプルリターン・ミッションを試みると見られている。
日本の「火星衛星探査計画(MMX:Martian Moons Exploration )」ミッションは2024年に打ち上げ予定で、火星の衛星フォボスを訪問し、地表からサンプルを採取して2029年に地球へ持ち帰る計画だ。中国は準惑星セレスへのサンプルリターン・ミッションを検討している。さらに、金星大気中からホスフィンが検出された可能性があり(まだ複数のグループによって確認中だが)、金星へのミッションを実行するとすれば、どのようなものとなるかを考えている科学者と技術者もいる。 …