フューチャリスト(未来社会を一貫性のある世界観で検討し、提示する人)として知られるスタンフォード大学のポール・サフォー教授は、先週の朝開催された講義で参加者(ほとんどが裕福そうな男性だ)を見渡し、1989年に起きた最も重大な出来事が何かわかるか尋ねた。
「ベルリンの壁崩壊ですか?」と誰かが答えた。サフォー教授は首を横に振って「情報管理(案)」と題したスライドを表示し、人差し指をあげた。後にワールド・ワイド・ウェブ(WWW)となるものの最初の青写真だ。サフォー教授は厳しい表情で「歴史的観点から、WWWは(壁の崩壊よりも)ずっと大きく世界を変える出来事でした」と述べた。
これこそ、参加者が期待したとおりの話だ。金融やエネルギー業界等の経営幹部90人は、小さな声で賛同したり、うなずいたりした。カリフォルニア州マウンテンビューにある米国航空宇宙局(NASA)のエイムズ研究パークにある凡庸な建物に、26カ国からの参加者が訪れるのは、シンギュラリティ大学(フューチャリストで投資家のレイ・カーツワイルが唱えるシンギュラリティ理論に基づく、営利目的かつ学位を授与しない学術機関)の講義に出席するためだ。シンギュラリティ大学(Singularity University)は年に数回、1万4000ドルの授業料で企業幹部に1週間コースの講義「指数関数的リーダーシップ(exponential leadership)」(ついでにシリコンバレーの先進的な空気も味わえる)への参加を認めている。
受講者のひとりステラ・モカンは、「人間の寿命の延長」と「人工知能が労働市場を破壊する高い可能性」に関する講義の合間に「私たちは、いまの考え方を壊す必要があるのです」と述べた。
前職でモルドバ(東ヨーロッパの小国)の最高情報責任者(CIO)を務め、現在は世界銀行のITマネージャーであるモカンは、ハーバード大学ケネディ校(政治学大学院)から修士号を取得している。しかし、シンギュラリティ大学は、政府や関連機関が通常はしないようなやり方で、テクノロジーが現実を変化させることにあえて立ち向かおうとしている、とモカンはいう。「私たちの制度や法律、政策は、破壊的テクノロジー時代に適合するようアップグレードする必要があります」
「SU」は2009年、カーツワイルと宇宙起 …