米議事堂襲撃事件、その前後
警察はどう動いたか?
1月6日に米連邦議会議事堂が襲撃・占拠された事件は衝撃を与えた。潤沢なリソースを持つはずの議会警察はなぜ暴動を阻止できなかったのか。 by Tate Ryan-Mosley2021.01.26
1月6日、暴徒による米国の国会議事堂の占拠を見たとき、全世界は身も凍るような恐怖に襲われた。一部の果敢な警察官は一歩も引かなかったが、多勢に無勢で無防備だった。一方で、暴徒を警察のバリケードの中に手招きして呼び込んでいる警察官や、議事堂に侵入した暴徒の自撮りに一緒におさまっている警察官を捉えた映像もある。
大統領就任式を前に、米国政府は(日本版注:この記事は米国版で18日に公開された)、暴徒侵入以前には実施されていなかった可能性が高い監視措置を含む、武力の誇示で応酬しようとしている。
航空機追跡WebサイトADS-Bエクスチェンジ(ADS-B Exchange)やフライト・アウェア(Flight Aware)のデータによると、議事堂襲撃以降、複数の観測機がワシントンD.C.の上空で確認されている。米陸軍の請負業者であるラサイ航空(Lasai Aviation)の観測機は高感度のレーダーを装備していると推測され、1月13日の日中、数時間にわたって競走馬のような動きで議事堂上空を旋回していた。同種の航空機は以前、ロシアとベラルーシの国境付近のラトビアで目撃されている。米国防総省は、この航空機が米軍のものであることを否定している。
さらに、米国内務省(DOI)に登録され、米国公園警察が運用している2機のヘリコプターもワシントンD.C.の上空を飛行している。そのうちの1機は1月10日以降ほぼ連日目撃しており、他の1機は1月11日から13日の飛行が確認されている。公園警察は、このフライトは定期メンテナンスの一環であり、ヘリコプターは普段からワシントンD.C.上空を飛行していると説明した。1月6日以降、DC首都警察のヘリコプターがワシントンD.C.上空を定期的に飛行しているとの報告もある。
過去1年間で、このような航空機が米国連邦議会の上空に配備されたのは、初めてのことではない。例えば、夏の間、州軍はワシントンD.C.でのブラック・ライブズ・マター運動(BLM)の抗議活動を監視するため、赤外線や電気光学カメラを搭載したRC-26B偵察機を使用していた。この機体は以前、イラクとアフガニスタンで偵察に使用されていたものだ。
米国自由人権協会(ACLU)のジェイ・スタンリー上級政策アナリストは、議事堂を襲った暴徒の行為は「我々の民主主義の中核機能に対する攻撃でした」と言う。監視の増強は民主主義を守るために「確かに正当化される」が、人権の観点からは、テクノロジーの使用に関するポリシーと透明性が不可欠だと話す。「いかなる状況においても、空中監視は注意深く精査され、その必要性は厳しく問われるべきです」と語る。
しかし、現在の議事堂の監視や軍事力誇示のレベルは、1月6日以前の明らかな警備体制の不備とは著しく対照的なものだ。MITテクノロジーレビューは、暴徒が大挙して議事堂に押しかけたとき、上空にはDC警察の運用するヘリコプター1機しかいなかった事実を確認している。現在は、数千人にもおよぶ警備部隊が議事堂の内外に配置されており、高度かつ洗練された軍事作戦のような体制が敷かれている。スタンリー上級政策アナリストは、監視の増強が襲撃の方向性を劇的に変える可能性は低いと警告しているが、襲撃前と現在の落差からは、何か間違っていたのか、その理由はなぜか、との疑問を多くの専門家に残している。
「単に、何もしていなかったように思います」。サウス・カロライナ大学のセス・ストートン准教授(犯罪学)は言う。「計画や統率力、指揮系統の失敗だと考えられます」。
では一体何が起きたのか? 何が悪かったのか?
事前通告を活かせなかった予算潤沢な議会警察
中には驚く人もいるかもしれないが、1月6日の潜在的な脅威の可能性を、司法当局は認識していた。ワシントンポスト紙によると1月5日、米国連邦捜査局(FBI)のノーフォーク支局から、議事堂において想定される脅威についての状況認識報告書が送られていた。議事堂エリア内のホテルは予約で一杯で、組織的な暴力について何週間もオンライン会議が実施されていた。襲撃2日前の1月4日には、ワシントンD.C.で大容量の銃弾倉を持った右翼団体プラウド・ボーイズ(Proud Boys)のリーダーが逮捕されている。もちろん何より、トランプ前大統領自身が自らの支持者たちへ …
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