接触追跡アプリ8割普及のシンガポール、目的外利用で揺らぐ信頼
国内居住者の8割近くが利用するシンガポールの新型コロナ接触者追跡アプリを巡って、当初の説明にはない犯罪捜査に利用されていたことが明らかになった。シンガポール国民だけでなく、同様のシステムを検討している国にも影響を及ぼす可能性がある。 by Kirsten Han2021.01.22
シンガポール国民にとって、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックとテクノロジーは密接に絡んでいる。1つは、QRコードの利用だ。シンガポールが2020年4月から5月にかけて導入した接触者追跡システム「セーフエントリー(SafeEntry)」の一部として、白黒で正方形のQRコードが国中のあちこちに設置されている。
セーフエントリーでは、レストランや各種店舗、モールといった公共の場所に入る際に全員がQRコードをスキャンし、名前やIDまたはパスポート番号、電話番号を登録しなければならない。利用者の誰かが新型コロナ検査で陽性となった場合、接触者追跡の担当者がこれらのデータを利用し、濃厚接触の疑いがある人たちを追跡する。
シンガポールで導入されたもう1つのテクノロジーは、2020年3月に公開された「トレース・トゥギャザー(TraceTogether)」と呼ばれるアプリだ。これは、Bluetoothを利用して濃厚接触があったかどうかを確認するもので、ユーザー同士が接近するとアプリをインストールした端末が匿名化および暗号化されたユーザーIDを交換する。どちらかが新型コロナ検査で陽性となった場合、保健省によって暗号が復号される。
スマホアプリを利用できない、あるいは利用したくない場合、アプリと同じ機能を持つトレース・トゥギャザー用のトークン(小型機器)を政府が提供している。現時点でトレース・トゥギャザーの利用は任意だが、政府はトレース・トゥギャザーをセーフエントリーと統合すると発表しており、これによりアプリのダウンロードまたはトークンの取得が義務化される。
セーフエントリーとトレース・トゥギャザーという2つのシステムが公開された当時、国民が懸念を持っても議論できる余裕はほとんどなかった。これらのシステムはパンデミックとの戦いに必要なものだと見なされ、シンガポール政府はいつものようにトップダウンで導入を進めていった。とはいえ、政府はシンガポール国民の不安を解消するため、こうしたテクノロジーを通じて収集したデータは、パンデミックにおける接触者追跡のみに利用されると繰り返し訴えた。
そこから、事態は間違った方向へと進んでいった。
警察に利用されている個人データ
2021年1月には、政府が「収集したデータは、パンデミックにおける接触者追跡のみに利用される」としていた主張が虚偽であることが明らかになった。内務省が、実際には収集されたデータが警察の犯罪捜査に利用される可能性があ …
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