2021年1月に、200年以上にわたって米国の民主主義の座である米国議会議事堂に暴徒が押し寄せ、最大級の暴力が行使された。暴徒たちはドナルド・トランプが主張する「大統領選挙は盗まれた」という誤った信念に突き動かされており、大部分において、近年のテクノロジーが生み出した「アテンション・エコノミー」の産物をたやすく信じ込んでしまったのだ。
フェイスブックやツイッターのニュースフィードは、日々における数十億人もの人々の興味関心を商品化するというビジネスモデルで運営されている。ツイートや投稿やグループを並べ替え、最大のエンゲージメント(クリック、閲覧、シェア)を得るのはどれであるか、もっとも強力な感情的反応を得るのはどれであるかが判定される。このような商品化された興味関心のプラットフォームが集団心理を歪ませ、より視野狭窄的で、より狂信的な世界観へと導いてきた。
※この記事は、『新しい可能性:危機を超えた私たちの世界のビジョン(The New Possible: Visions of Our World beyond Crisis)』(2021年1月刊、未邦訳)を抜粋したものです。
ユーチューブのおすすめアルゴリズムは数十億人の人々の毎日の視聴時間の70%を決定している。この「サジェスト」は類似の動画を想定したものであるが、実際には視聴者を、より極端で、よりネガティブ、より陰謀論的なコンテンツへと導いていく。なぜならそういったコンテンツこそが視聴者をより長時間画面に釘付けにするからだ。
長年にわたってユーチューブは、「ダイエット」関連の動画を視聴した10代の少女に対して「痩せようキャンペーン」(食欲不振を催す動画)をおすすめしてきた。米国航空宇宙局(NASA)の月面着陸の科学動画を視聴した人々には、地球平面説の陰謀論に関する動画をおすすめしてきた。何億回にもわたってだ。このようなおすすめシステムやニュースフィードは、ネガティブと妄想の悪循環を生み出し、数十億の人々の現実認識をゆっくりと現実そのものから引き離してきた。
現実をありのまま明晰に見ることは我々の行動能力全般の基礎だ。興味関心の収益化や商品化によって、問題を見据えて総合的な解決策を制定する能力を我々は売り払ってしまった。これは今に始まったことではない。ほぼどんなときでも、我々は自分たちの社会や地球の生命を支えるシステムの商品化を許してきた。それは別種の破綻を引き起こしている。
人工知能(AI)によって最適化されたマイクロターゲティング済みの広告で政治を商品化すれば、政治から品位が失われることになる。食品を商品化すれば、農業を持続可能にするライフサイクルとのつながりを失うことになる。教育をデジタルコンテンツのフィードとして商品化すれば、人間の発達、信頼、ケア、教師の権威の相互的な関係性を失うことになる。人々をティンダー(Tinder)のカードゲームに向かわせて恋愛を商品化すれば、新たな関係を築く際の複雑な求愛行動を切断することになる。そして、コミュニケーションをフェイスブックの投稿やコメントスレッドの塊として商品化すれば、文脈、ニュアンス、敬意が奪われることになる。これらすべてのケースにおいて、搾取のシステムが健康的な社会や健康的な惑星の基盤をゆっくりと侵食していくのだ。
興味関心を保護するためシステムを変更する
著名な生物学者のエドワード・オズボーン・ウィルソンは、人類は地球の半分だけを運営し、残りは放置しておくべきだと提案した。アテンション・エコノミーについても何か同様のことを思い浮かべよう。次のように言うことができるし、また、そうあるべきである。我々の望みは人々の興味関心を保護することだ。たとえそれがアップルやグーグルやフェイスブックやその他の巨大テック企業の利益を部分的に犠牲にするとしてもである。
デジタルデバイスの広告ブロックは、デジタル世界の構造的変化がどのようなものになり得るかの興味深い事例だ。広告ブロックは人権なのだろうか。もし誰もがフェイスブックやグーグルやWebサイトの広告を非表示にすることが可能ならば、インターネット企業は収益を得られなくなり、広告の経済活動は莫大な売上高を失うことになる。この結果は権利を否定するものだろうか。あなたの興味関心は権利なのだろうか。興味関心はあなたの所有物なのだろうか。我々はそれに値札を付けてもよいのだろうか。
人間の臓器や奴隷にされた人間を売れば、需要を満たし利益を生み出す。しかし、これらの品目は市場にあるべきものではないと我々は言う。人間や臓器のように、人間の興味関心は金で買えないものであるべきではないだろうか。
新型コロナウィルスのパンデミック、ブラック・ライヴズ・マター(BLM)運動、気候変動、そしてその他の環境的危機により、ますます多くの人々が我々の経済や社会システムがいかに壊れているかに気付くようになってきている。しかし我々は、こうした相互につながっている危機の根本をつかんでいない。
我々は、正しい回答のように思えるが、こっそりと現状を維持する罠である介入に引っかかっている。ほんの少しばかりマシな警察の行動やボディ・カメラは、警察の不祥事の防止にはならない。プリウスやテスラを購入しても大気中の二酸化炭素のレベルを本当に下げるには不充 …