おいしいステーキ肉を巡る果てしない挑戦
人工授精や遺伝子マッピング、DNA検査によって、より大型で健康的な肉牛の生産が可能になった。しかし、牛のライフサイクルは他の食肉と比べてかなり長いので、まだまだ挑戦は続きそうだ。 by Katie McLean2021.01.14
2019年以来、飼育している子牛の健康に問題を抱えている。何が起きているのかよく分かってはいないが、極度の暑さによるものかもしれないと考えている。おそらく「認定アンガス牛(Certified Angus Beef)」という名前を耳にしたことがあるだろう。本当に人気の高い牛肉ブランドで、その基準を満たす畜牛はより高値で売れる。しかし、そのブランドを名乗る条件の1つは、黒毛牛から生まれた子牛でなければならないというもので、黒毛牛は他の他の品種に比べて暑さに弱い。私たちが飼育しているのはアンガス100%ではないが、アンガス牛の血がおよそ75%入っている。気温が高くなると、子牛は暑さで弱り、立ち上がって乳を飲むだけの元気がなくなってしまう。確か2019年には、熱射病で子牛を何頭か失ったことがあった。
繁殖プログラムの迅速な変更は至難の業だが、そこは多くの技術や研究による進歩から恩恵を受けている。「種畜」生産者は、人工授精や胚移植といった手法を使って繁殖動物を育てる。これらの技術は高価で、種畜生産者が他の牧場主に対して雄牛を3万ドル以上で売るのも珍しいことではない。雌牛と自然繁殖させる場合、1頭の雄牛から生涯100頭の子牛を育てることができるが、高度な生殖技術を使えばその雄牛に数千頭の子牛を産ませることが可能になる。
異種交配された雑種動物が、その両親よりも優れた形質(体重や寿命など)を持つことが多い傾向を「雑種強勢」と呼ぶ。これは、品種を改良するための優れた手法である。基本的に、動物は異なる品種ごとに遺伝的差異があり、それらを掛け合わせることで品種改良に弾みを付けられる。血統が離れていれば離れているほど、より多くの雑種強勢が生まれる。私が実際にこの雑種強勢を活用する例の1つが、熱帯地域で進化したコブウシと在来種のウシとの交配で、その目的は耐暑性の向上と長寿命化である。
牧畜の世界で、テクノロジーは雑草のように広まった。1970年代には人工授精の手法が幅広く普及し、1990年代には品種のバランスをとるのに役立つ遺伝子マッピングやDNA検査など、近代的な手法が登場した。検査やデータベースへの登録、あらゆる手数料の支払い、家畜IDの取得など、遺伝子マッピングにはコストがかかる。しかし、遺伝子マッピングによって、例えばどの雄牛に成長の特異的遺伝子があるかを知ることができる。つまり、遺伝子マッピングは、私たちが目指すさまざまな遺伝的進歩をより早く進めることができるわけだ。
50年前の牛の平均体重はおよそ900ポンド(400キロ)であり、1970年代にはおそらく約1000ポンド(450キロ)であった。現在、牛の平均体重は約1300ポンド(590キロ)となっている。その大きさの牛を飼育するには、より広い面積が必要となる。そして、そういった牛からはずっと大きな子牛が生まれ、冬にはより多くの飼料が必要となる。1950年代や60年代初頭は、牛が太り過ぎたり、小さ過ぎたりすることがあり、生産寿命はとても短かった。その後、1970年代(私は1972年に大学を卒業した)には、医学界から脂肪の取りすぎは心臓に悪いとされ、業界内で脂肪をめぐる論争があった。私たちは実際に、より効率的で、より大きく、より引き締まった牛を育てることに集中した。それには約20年を要した。しかし、そのことに集中するあまり、肉が硬くなり過ぎて、食べられなくなっていることに気がついた。その後、いろいろと試行錯誤を重ねた結果、現在私たちは脂肪たっぷりでもなく、硬すぎない中間の肉を提供できるようになった。ストライクゾーンを見つけたと私は思っている。もうレストランで、「ステーキで歯が折れた」というようなこともないだろう。
理想的な牛の品種の繁殖は、私のキャリアにおいて主要な関心事の1つとなってきた。牛のライフサイクルは他の食肉と比べてかなり長いので、これは大きな挑戦だ。
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この記事は、普段お金を支払って口にしている食品が、隠れたイノベーションによってどのように生み出されているかを紹介するシリーズの一部です。クリシカ・ヴァラガーが取材・編集しています。
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- katie.mclean [Katie McLean]米国版
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