2020年は犠牲と悲劇の年であったが、少なくとも気候変動対策に関しては転換点であったとはいえるだろう。
世界の石油需要と温室効果ガス排出量は2019年にピークを迎えた可能性がある。なぜなら、パンデミックは今後数年間にわたって、経済成長を減速させ、脱石炭を加速させ、また、リモートワークの継続などによってエネルギー需要が長期的に減少するかもしれないからだ。
それに加え、ますます多くの大企業や、中国をはじめとする国々が、今世紀半ばまでにゼロ・エミッションを実現すると明言している。新たに選出されたジョー・バイデン次期大統領も、大胆な気候変動対策をすると公約している。太陽光、風力、燃料電池、電気自動車といったクリーンテクノロジーはますます安価になり、市場に根付き始めている。
2020年末には米国連邦議会が、広範囲にわたる新型コロナウイルス経済対策法案に盛り込まれた、クリーンエネルギープロジェクトに対する数百億ドル相当の支援を認可した(まだ支出には至っていない)。同法案ではヒドロフルオロカーボンに関する規制も強化されている。ヒドロフルオロカーボンは冷蔵庫やエアコンで用いられる強力な温室効果ガスだ(トランプ大統領は同法案を「面汚しだ」と批判しながらも、結局12月27日に署名し、法律として成立させた)。
研究者が気候変動の危険性に警鐘を鳴らし始めてから数十年が経ち、ようやく転換点がやってきた。しかし、それよりも重要なのは、これからどうやって温室効果ガス排出を迅速かつ継続的に削減してゆくのかということだ。2020年に起こった出来事と人々の対応を見ると、先行きは暗いように思える。
遅すぎる変革
温室効果ガスの排出量がピークを迎えたとしても、それはただ、年を経るごとに問題がより悪化しなくなるというだけだ。悪化させていること自体は変わらない。二酸化炭素は大気中で数百年も存在し続ける。我々が排出を続ける限り、気候変動は一層促進され、熱波、干ばつ、山火事、飢饉、洪水は増加あるいは悪化する。
我々は、温室効果ガスの排出を抑制するのではなく、できる限り早く無くす必要がある。もっとも、排出を無くせたとしても、我々は世界に与えた事実上永遠に残るダメージと向き合わねばならない。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的拡大を受け、人々の行動様式は劇的に変化した。そのことについて、気候変動に対しても一丸となって対応できるという有望な兆しであると主張する人々もいるが、正直に言ってナンセンスだ。
多くの人々が車で通勤するのをやめた。バーやレストラン、映画館に行かなくなった。世界中を飛び回らなくなった。経済成長は落ち込み、数億人が職を失い、数十万の企業が倒産した。人々は飢え、世界は一層貧しくなっている。
気候変動を減速させるにあたって、このような手段は現実的でもなければ、受け入れられるものでもない。さらに、このような荒廃がもたらされても、ブルームバーグNEFの推定によれば、2020年の米国の温室効果ガス排出量はわずか6%ほどしか減少していない。全世界の排出量の推定もほぼ同様だ。環境汚染の低減は凄まじい経済的コストを伴い、ロディウム・グループ(Rhodium Group)の以前の推定によると、炭素1トンあたり3200ドルから5400ドルにもなる。
我々が現在直面しているよりもはるかに危険な温暖化を止めるには、このレベル …