2020年は、私たちを救うためにテクノロジーが必要とされた年だった。年初に始まったパンデミック(世界的な流行)があっという間に世界中に広がり、大規模な山火事や不安定な政治的分断があり、ソーシャルメディアの悪影響にも喘いだ。2020年は、テクノロジーが人を助けることも害を及ぼすこともあることがよりはっきりした年だったと言える。
成功例としては、新型コロナウイルスのワクチンが挙げられる。だが、この記事で取り上げるのは成功事例ではない。2020年にテクノロジーがうまく作用しなかった最悪の失敗事例の一覧だ。大失敗した数十億ドル規模のデジタル事業計画や、失態を演じた新型コロナウイルス検査、人工衛星で地球を覆ったために起きた不測の事態などが含まれている。
1. 新型コロナ検査
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は、新しいテクノロジーではない。実際、特定の遺伝子の存在を発見するために使われるこの技術が発明されたのは1980年のことで、発明者は10年後にノーベル賞を受賞している。現在では、無数の診断検査と実験室での研究に利用されている技術だ。
したがって、新型コロナウイルスによるパンデミックの初期に、米国疾病予防管理センター(CDC)の専門研究所が、汚染されて使い物にならない試薬の入った検査キットを複数の州に送付したことは歴史的な大失敗に数えられる。新型コロナウイルスの拡散を止めることに失敗し、国のトップの公衆衛生機関は重要な役割を果たせなかった。さらに俯瞰すれば、PCRを発明した米国が新型コロナウイルス検査を必要としている人全員に検査ができない、という予期せぬ事態の始まりとなった。広く頻繁に検査をすることが、国を動かし続ける最も迅速で安価な方法だと経済学者らが主張していたにもかかわらずだ。11カ月経った現在でも、民間の研究所、大学、医療機関が1日約200万件の検査を実施しているにもかかわらず、検査のために列をなして待ったり、検査の実施が遅れたりするのが当たり前となっている。
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2. 野放しの顔認識
コンビニ強盗を捉えた低画質のビデオを想像してみてほしい。万引き犯がカメラに目を向けると、警察は直ちに犯人を特定するために顔認識を使用する。オレゴン州ポートランドなどの一部の都市は、こうした顔認識技術の使用禁止を決定した。
顔を一致させる能力は、新世代の人工知能(AI)が勝ち取った画期的な進歩の1つだ。この技術は、いたるところに登場している。中には学校や公営住宅など、その使用が踏み込みすぎ、あるいは不公平と感じられる状況もある。その結果、2020年には超人的なAIの能力の1つを封じる規制や方針が都市や州、企業によって次々に導入された。
顔認識テクノロジーが加速している理由は、カメラがあらゆる場所に存在するからだ。加えて、誰もが自撮り画像をどこかに公開している。「我々は、何十億もの顔を餌として与え、自分自身をタグづけして手助けすることで、この顔認識という獣を檻から出すことを許したのです」。ジョセフ・アティック博士は話す。アティック博士は、特別なカメラと個人が公開した画像のデータベースを使用した初期の顔認識システムを作った人物だ。今では、オンラインで画像を大量に処理する数百もの顔認識プログラムがある。これらのシステムを制御することは「もはや技術的な問題ではありません」とアティック博士は語る。
2020年の夏、マイクロソフトとアマゾンは、警察による自社の顔認識システムの利用を少なくとも一時的には拒否した。ポートランドのような都市は、ホテルや店が人を特定することも止めさせる、全面的な禁止措置を導入した。いまだ欠けているのは、適切な使用とそうでないものについて指針を与える国家的な枠組みだ。乱用と禁止を繰り返す代わりの方針が必要なのだ。米国には、それがまだない。
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3. あっという間に頓挫したクイビー
「すばやく、手軽で、壮大な物語」。それが、ハリウッドが手を貸したストーミングサービス「クイビー(Quibi)」のモットーだった。昨年4月に始まったクイビーは、スマートフォン向けに特化した10分間番組を配信するもので、エンターテイメント界の革命を目指していた。
しかし、壮大な物語は結局、クイビーの急速な終焉によってあっという間に幕を閉じた。デビューからわずか6カ月後、運営会社は従業員を解雇し、調達した17億5000万ドルの残りを投資家に返却した。
この不発だった出来事で頭をよぎるのは、2018年の報道界における「方向転換」だ。複数のニュースサイトが、短い動画を製作するために記者を一斉に入れ替え、最終的には容赦なく解雇されたのだ。同様にクイビーは、月4.99ドルのサブスクリプション向けの見応えのあるコンテンツを作るために高給取りのプロを使っていたが、ユーチューブやティックトック(TikTok)、猫の動画やダ …