小児脳がんの56%に遺伝子変異発見で、標的抗がん剤に希望
小児がん患者の半数以上にある遺伝子欠陥が見つかったことで、診断方法が変わり、医薬品の標的にできるかもしれない。 by Emily Mullin2017.01.24
過去30年で、がんで亡くなる子どもは全体では50%減少したが、小児脳がんは30%しか減少していない。
ダナ=ファーバーがん研究所とボストン小児病院の研究者は適確医療(遺伝的特徴などの医療情報をもとに、個人に合わせて治療法をカスタマイズするアイデア)でこの率を高められると考えている。
研究者は、患者の腫瘍標本203件の遺伝子鑑定を実施し、その56%に遺伝的異常があることを発見した。つまり医師が脳腫瘍を診断したり、市販の医薬品や臨床試験中の医薬品で治療したりするときの手がかりになる。
論文誌ニューロ・オンコロジー(神経腫瘍学)に先週発表された研究結果によれば、成人と比べて小児脳腫瘍に特有の遺伝的差異が明らかにされ、子どもと成人の脳腫瘍では異なる治療が必要なことが示された。
現在、このようながんゲノム検査は通常は実施されない。多くの健康保険では補償されず、研究病院以外では滅多に検査されない。
研究の共同筆頭執筆者でダナファーバー・ボストン小児がんセンターおよび血液障害センターの小児神経腫瘍学者であるプラティティ・バンドパダヤイ医師は「脳腫瘍の子どものゲノム検査をしたのは、標準的な治療法ではうまくいっていないからです」という。小児脳腫瘍は子どもががんで亡くなる主な原因で、標準的な治療法は、手術か放射線療法、化学療法だった。
これまで何十年も、同じ腫瘍タイプの子どもは同じ治療を受けてきたとバンドパダヤイ医師はいう。「これらの腫瘍は顕微鏡で観察して同じに見えたとしても、異なる遺伝的要因を持つ可能性があることがわかってきました」
腫瘍の特定の遺伝的差異を標的にするがん治療法は続々と市販されつつあるが、米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けた小児脳腫瘍専用の標的抗がん剤はまだない。
203個の腫瘍標本に最も一般的に見られた遺伝子変異のひとつはBRAF遺伝子にあった。BRAFが変異すると正常な細胞をがん化させる可能性がある。BRAFを標的にした黒色腫(メラノーマ)の医薬品2種類がFDAに承認され、そのひとつ、ダブラフェニブは現在特定の小児脳腫瘍で臨床試験中だ。
標的療法は腫瘍細胞内の特定の異常に適合する場合に最も効果を発揮しそうだ。だがアメリカ脳腫瘍協会のアン・キングストン理事(研究・科学政策担当、ダナファーバーがん研究所の研究には関与していない)は、腫瘍に同じ遺伝子変異を持つ人であっても、同じ治療に同じ反応を示すとは限らないという。
キングストン理事は、腫瘍標本から腫瘍全体のことがわかるとは限らないともいう。たとえば、ある遺伝子変異は腫瘍内のある細胞には見つかっても、他の細胞にはないかもしれず、これで患者に処方する医薬品が変わってしまうかもしれない。
この研究では治療後に患者がどうなったかを追跡調査しなかった。適確医療の不確実性のひとつは、これらのゲノム検査が患者の平均余命や生活の質の向上に結びつくかどうかだ。
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クレジット | Image courtesy of the National Institutes of Health |
- エミリー マリン [Emily Mullin]米国版
- ピッツバーグを拠点にバイオテクノロジー関連を取材するフリーランス・ジャーナリスト。2018年までMITテクノロジーレビューの医学生物学担当編集者を務めた。