ところざわサクラタウンから
発信される
KADOKAWAのSDGs
2020年11月6日、総合エンターテインメント企業KADOKAWAの複合施設「ところざわサクラタウン」がグランドオープンした。ミュージアムやホテルなどを備えたポップカルチャーの発信拠点であると同時に、KADOKAWAが推進する出版デジタル革新の拠点となる。同社が目指す持続可能なコンテンツ・ビジネスの姿と、ところざわサクラタウンを中心としたSDGsの取り組みを紹介する。 by MIT Technology Review Brand Studio2021.01.12Promotion
JR武蔵野線・東所沢駅から徒歩で約10分。「ところざわサクラタウン」でまず目を引くのは、隈研吾氏が設計した「角川武蔵野ミュージアム」だろう。巨大な岩石のような外観で、その中には博物館をはじめ、アニメミュージアムやマンガ・ラノベ図書館、さらに高さ約8メートルで5万冊もの本を収蔵する巨大本棚「本棚劇場」などを備えている。ところざわサクラタウンのランドマーク的な存在だ。
約4万平方メートルの広大な敷地には他にも、アニメをテーマにしたコンセプト・ホテルや大小2つのホール、1000人規模の屋外イベントが可能なテラス、レストランやショップ、神社といった多彩な施設があり、この場所をアニメツーリズム(アニメ聖地をつなぐ広域の周遊観光ルート)の一番札所にも設定するなど、日本最大級のポップカルチャーの発信拠点となっている。
ただ、ところざわサクラタウンにはもう1つ別の顔がある。それが、KADOKAWAの1000人規模のオフィス「所沢キャンパス」であり、最新鋭のデジタル製造設備を備えた書籍製造・物流工場だ。オフィスと工場、倉庫が一体となっていることで、企画制作から印刷、物流までワンストップで進めることができる。またワンストップの体制+出版デジタル革新によって、これまで出版業界が抱えていた過剰在庫や大量廃棄といった課題を解決することも可能となる。実は、ところざわサクラタウンはKADOKAWAのコンテンツ・ビジネス全体の心臓部であり、同時に持続可能なコンテンツ・ビジネスを実現するSDGsを体現する施設なのだ。
ところで、なぜKADOKAWAは東所沢に新たな拠点を作ったのだろうか。同社はもともと埼玉県三芳町などに製本工場や物流倉庫を保有していた。しかし、すでに40年以上稼働していて老朽化の問題があり、出版のデジタル化を推進するためにも新たな設備の必要に迫られていたところ、所沢市が旧所沢浄化センターの跡地の有効活用を検討していることを知ったのが始まりだ。広い敷地には、書籍製造と物流の設備のほか、新しいワークスタイルを実現するオフィスの設置や文化創造の視点からミュージアムの建設なども検討していった。
一方、所沢市には、人口が減少する中で生産年齢人口を確保するために、産業の活性化が不可欠だという思いがあった。そして、公募型プロポーザル方式によってKADOKAWAへの売却を決定、2014年にKADOKAWAに土地の所有権が移転した。その後、KADOKAWAからの提案がきっかけとなり、KADOKAWAと所沢市は共同で「みどり・文化・産業が調和した地域づくり」を目指す「COOL JAPAN FOREST構想」も推進している。地元である所沢市との共生も、ところざわサクラタウンのSDGsの大切なテーマの1つだ。
ところざわサクラタウンが完成したことで、今後は地域の雇用創出が期待されている。施設内では学童保育を開所していて、働きやすい環境づくりにも力を入れている。他にも、一般客も利用できる社員食堂「角川食堂」では、地元の食材を多く使用したり、障がい者を雇用している特例子会社で焙煎したコーヒーを提供したりしている。KADOKAWAは、ところざわサクラタウン全体でSDGsに配慮した運営に取り組み、国内屈指のSDGs拠点とすることも目指しているという。そして、SDGsの取り組みの中核にはすでに触れたように、企画制作から印刷、物流までワンストップで行える体制と、出版デジタル革新がある。
その出版デジタル革新という側面を中心に、ところざわサクラタウンで実現しようとしている持続可能なコンテンツ・ビジネスの取り組みについて、KADOKAWA代表取締役社長である松原眞樹氏に聞いていく。
KADOKAWA 松原眞樹社長インタビュー
ところざわサクラタウンを拠点に業界の新スタンダードを創っていくところざわサクラタウンでは、出版のすべての工程をデジタル化。また、オフィスのデジタル化も推進し、テレワークが可能な環境を実現している。デジタル化の先にあるものとは? 松原眞樹社長に話を伺った。
出版デジタル革新で実現する持続可能なコンテンツ・ビジネス
「持続可能」というキーワードから見ると、従来型のコンテンツ・ビジネス、とりわけ出版産業には課題がある。従来の製造・流通システムは大量製造、大量の返本により過剰な在庫を抱え、最終的に大量廃棄にいたり、紙もインクも水資源もエネルギーも、さらに人的資源についても無駄が出るためだ。
持続可能なコンテンツ・ビジネスを実現するにはどうすればいいのか――。KADOKAWAが出した答えが「出版のデジタル革新」だ。同社は現在、ところざわサクラタウンを中心に、出版のフルデジタル化に取り組んでいる。松原社長は次のように語る。
「1つは、企画から制作、印刷、物流、データ管理にいたるまで、すべての工程をデジタル化することです。ところざわサクラタウンに自前の製造設備を持っているからこそ、私たちには全工程のデジタル化が可能です。現状、校了というラストワンマイルが残っていますが、これも2年以内に移行できると考えています。製造のフルデジタル化により、今までの見込み製造と大量返本の悪循環から脱却し、需要に応じた最適な数量を提供して、足りなくなればプリント・オンデマンドでスピーディに補うことができます。読者やユーザーの多様な要望にタイムリーに応えながら、次々に新しいものを生み出していく体制が作れます」
ただし、印刷をすべて自社でカバーすることは考えていない。印刷会社が得意とするボリュームや仕様の商品の製造については印刷会社に依頼し、引き続き「共存共栄」のスタイルを取っていくと言う。
「それでも、デジタル化した製造工程のプラットフォームを自前で持つことは、これからも出版事業を持続していく上で重要になると考えます」
また、KADOKAWAは、DXによりIPやサービスの新たな付加価値創出を推進しているが、出版においても製造工程と共にプロダクトのデジタル化を進めている。グループ会社が電子書籍ストア「BOOK☆WALKER」を運営するほか、NTTドコモとの協業によって「dマガジン」を展開。他社のコンテンツも扱い、業界のデジタル化にも貢献する。
安全環境と安定供給の確保でビジネスと顧客を守る
KADOKAWAがところざわサクラタウンに工場・倉庫とオフィスを作ることになったきっかけの1つには、2011年の東日本大震災もあると言う。
「BCP(事業継続計画)の観点から、仮に大きな災害があっても社員および働いている人の安全確保を大前提に、商品の安定供給も続けられるようにしていかなければならないと考えました。そのためには、かなりの耐震構造を持った建物が必要になる。また、社員については、2割程度は常時テレワークで働けるような体制を作っていこうという流れもありました」
テレワークでも出社時と同様にコミュニケーションを取り、円滑に業務を進めるためには、やはり「デジタル化」がカギとなる。KADOKAWAにとって幸いだったのは、傘下にドワンゴやグループ内のICTサービスを担うKDX(KADOKAWA Connected)があったことだ。通信環境の整備など、ところざわサクラタウンのデジタル化推進にとって、万全の協力体制が備わっていた。
「ところざわサクラタウンの計画時には、当然ながら2020年のコロナ禍は想定していませんでした。しかし、テレワークを前提に働く体制を整えていたことで、結果的にはコロナ禍でも普段通りいきいきと仕事をして、テレワーク率7割を維持したままコンテンツを生み出し続けることができています。産休や育休、介護休暇も取得しやすくなりました。デジタル化は、私たちKADOKAWAの『働き方改革』の回答でもあります」
松原社長は、出版を含むコンテンツ・ビジネスを「文化産業」と位置づける。文化産業は、持続可能な社会にとって不可欠な存在であり、まさにSDGsそのものだと言う。
「出版業界には『資源の無駄遣い』に代表されるようにSDGsに逆行する部分もありましたが、出版デジタル革新でそれは解決に向かっています。また、デジタル化によって今後は自社内でできる事業の幅ももっと広がっていく可能性もあります。コンテンツ・ビジネス業界全体の発展に貢献するのが、上場企業としてのKADOKAWAの使命であり、ところざわサクラタウンの完成で、その使命を果たすためのスタート地点に立てたと感じています。私たちが、業界の新しいスタンダードを創らなければならないと感じています」
(文:肥後紀子/写真:篠原孝志(松原社長/オフィス内))
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