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須賀千鶴氏:求められる「グレート・リセット」の視点
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Why is now the time for a "Great Reset"?

須賀千鶴氏:求められる「グレート・リセット」の視点

SDGsが掲げる世界規模の社会課題の解決へ向けて、大きな壁となるのが、課題認識に対するグローバル・ギャップの存在だ。ギャップ解消へ日本にはどのような役割が期待されているのか? テクノロジーの社会実装に伴う課題についての国際議論をリードする、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターの須賀千鶴センター長に話を聞いた。 by Noriko Egashira2020.12.17

スイス・ジュネーブに本拠を置き、官民両セクターの協力を通じて世界情勢の改善に取り組む国際機関「世界経済フォーラム」。毎年1月に開催される年次総会、いわゆるダボス会議には、国家や企業のトップだけでなく、NGO・NPO、財団、組合など世界中のリーダー約3000人が一堂に会し、世界経済や環境問題、SDGsと重なる社会課題などを含めた幅広いテーマで討議している。

SDGs Issue
この記事はマガジン「SDGs Issue」に収録されています。 マガジンの紹介

テクノロジーを制御し「ガバナンス・ギャップ」解消に挑む

世界に強い影響力を持つ同フォーラムが、2017年3月に設立したのが、「第四次産業革命センター」である。水力や蒸気機関により工場の機械化が進んだ18世紀末の第一次産業革命、電力を用いて大量生産が実現した20世紀初頭の第二次産業革命、そして1970年代初頭からコンピューターの導入など情報技術による自動化が進展した第三次産業革命に続く「第四次産業革命」は、IoTやビッグデータ、AI(人工知能)などの技術革新を指し、これまで以上に経済や雇用などに大きな影響をもたらすとされている。第四次産業革命におけるテクノロジーは、さまざまな社会課題の解決に資することが期待される一方で、懸念事項もある。

そうしたテクノロジーについて、制御する術を持つ必要性や、国家間での「ガバナンス・ギャップ」解消の必要性を指摘するのが、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターの須賀千鶴センター長だ。

「これまではICTを活用することで、利便性や効率性が向上するなど基本的にメリットのほうが大きく、デメリットについては語られてきませんでした。しかし、第四次産業革命と総称しているテクノロジーの時代では、たとえば労働力にしてもAIに取って代わられるようになると、労働者は仕事を奪われかねません。あるいは医療やゲノム編集において、これまでは倫理的判断から実施しなかったことを、AIが合理的に判断していくことも想定されます。それを手放しに認めてしまうと、どんどん境界を越えていってしまう恐れが出てきます。こうした懸念に対して、テクノロジーがすべてを解決してくれると楽観視していると、最終的には社会から拒絶反応が出てきます。そうならないラインを見極めながら、どうやって一部の人たちだけに利益が集中せず、それ以外の人たちが不利益を被らないようにするか、喫緊の課題として議論する場が必要です。こうした背景から第四次産業革命センターが設立されました」

まずサンフランシスコに拠点が設けられ、2018年7月に世界2番目の拠点として立ち上がったのが日本センターである。現在、センターは13カ国に設置されている。サンフランシスコ本部にフェローとしてスタッフを派遣している「パートナー国」を含めると、そのネットワークは30カ国以上に広がっている。

官民越えて「テクノロジーを社会にどう役立てるか」を討議

第四次産業革命日本センターは、世界経済フォーラム、経済産業省、そして独立系のシンクタンク一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)の3機関のジョイントベンチャーである。

着目すべきは多彩なメンバー構成だ。須賀センター長の出向元である経産省のほか、厚労省、国交省、財務省、農水省と5つの省庁から人が送り込まれ、15社のパートナー企業が資金提供するだけでなくフェローとしてスタッフを派遣している。「官民の垣根なく、共にさまざまな分野について学び合い、検討しながら政策提言していく場は他にないのでは」と須賀センター長は言う。これまでのIT化とは次元が違う、第四次産業革命で加速するDX(デジタル・トランスフォーメーション)の波をうまく捉えるには、それだけクロスオーバーな組織体が必要だということだ。

「利益と副作用の両方を生み出すDXをいかにうまくそれぞれの組織に取り込み、組織を変革しながら、より良い社会を作っていくか。どんなに大きな組織でも、すべての動きを察知して、方向性を見極めて正しく判断し続けるのは困難です。そこでセンターではプロが“分からない”と言える場を作ろう、というコンセプトで取り組んでいます。テクノロジーを社会に実装するとき、テクノロジーの恩恵とそれを使うことによって生じる利益の再分配が、社会全体の隅々にまでフェアに行き渡るような視点も忘れないようにしています」

検討領域として当初は、データに基づく医療などの「ヘルスケア」、自動走行などの「モビリティ」、自治体サービスとデータを紐づける「スマートシティ」の3チームを結成した。

例えば、ヘルスケアのチームの場合、認知症で徘徊してしまう高齢者を病院に縛りつけておくのではなく、自分らしい生活を送れるよう、デジタル技術を活かして見守りサービスなどにどうつなげるかといったことを討議している。

またモビリティの領域では、MaaS(Mobility as a Service)がキーワードとなっているが、須賀センター長によると、これまで世界で主に議論されてきたのは渋滞という社会課題だ。この領域では、地域や国家間の違いが大きく現れていると言う。

「これは都市化が進んでいくとインフラ整備が追いつかずに渋滞が発生するという問題を、どうテクノロジーで解消していくかという課題設定です。日本の場合はインフラの整備はやり尽くしています。むしろ地方で、人口減少により鉄道やバスなどの公共交通が撤退し、コミュニティが廃れるという問題が顕在化しています。この課題には、数名で乗り合って自動運転で運用されるようなオンデマンド交通を地域でどう役立てるか、という視点でプロジェクトに取り組んでいます。そのための技術を保有するプレーヤーを探すのはもちろんですが、プレーヤーが実証実験後に撤退するということが世界中で相次いでいるので、本当に自治体の公共サービスとして定着させていくために必要なことは何か、制度と事業の狭間を検討しています」

スマートシティのチームであれば、現在は市民が自ら申請しないと受け …

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