欧州医薬品庁にサイバー攻撃、ワクチン文書に不正アクセス
欧州医薬品庁がサイバー攻撃を受け、ファイザーとバイオンテックが開発した新型コロナワクチンに関する文書が不正にアクセスされた。ただし、この件が同ワクチンの欧州での展開に影響を与えることはなさそうだ。 by Patrick Howell O'Neill2020.12.14
ファイザーとバイオンテック(BioNTech)が開発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンを審査を進めている欧州医薬品庁(European Medicines Agency)が、サイバー攻撃を受けた。
欧州当局によると、ファイザーとバイオンテックの新型コロナウイルス(SARS CoV-2)ワクチンが英国で初めて使用されたわずか数日後、同ワクチンの規制文書が「違法なアクセスを受けた」という。
ファイザーとバイオンテックのワクチン「BNT162b2」は、今のところ西欧諸国で承認された唯一の新型コロナワクチンである。ただし、今回のサイバー攻撃で、欧州でのワクチンの展開が影響を受けることはなさそうだ。
BNT162b2の大部分の成分は公表されている。だが、欧州医薬品庁は、有効成分に関するより正確なデータやワクチンの製造方法の詳細といった非公開情報も保有している。こういったデータは規制当局だけが保有しているわけではないが、欧州医薬品庁はクリアリングハウスであり、国家が支援するハッカーにとって価値がある機密情報を持っているはずだ。
バイオンテックの声明によると、同社やファイザーのシステムはハッキングされておらず、個人データにアクセスされた形跡はないという。現在、司法当局が事件を捜査している。
ワクチンと欧州医薬品庁が標的にされた今回の攻撃は、パンデミックに関する情報を狙って相次いでいるサイバースパイ活動の一環として発生している。報道によると、国家が支援するハッカーは先月、新型コロナワクチンのサプライチェーン、特に輸送時にワクチンを極低温に保つテクノロジーとプロセスに関する情報に不正アクセスを試みた。この1年にわたり、ロシアや北朝鮮と繋がっているハッカーは、新型コロナウイルスのワクチンと治療法を研究する企業を標的にしている。中国とイランのハッカーは、関連情報を盗もうとしたとして米国から非難を受けた。
ロシアと中国はすでに自国民にワクチン接種を始めている。米当局は12月7日の週の週末、ファイザーとバイオンテックのワクチンに緊急時使用許可を可否を決めるために会合を開き、製薬会社モデルナ(Moderna)のワクチンについては翌週、再度会合を開いて緊急使用許可の可否を決めることになっている(日本版注:米食品医薬品局(FDA)は12月11日にファイザーとバイオンテックの新型コロナワクチンの緊急使用を許可した)。
サイバーセキュリティの懸念により、すでに破滅的なパンデミックの状況は、いっそう複雑化している。さらに日和見主義的な犯罪者が、圧迫されている 病院にランサムウェア攻撃を仕掛けている。
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- 国家安全保障から個人のプライバシーまでをカバーする、サイバーセキュリティ・ジャーナリスト。