IBMとNY大、ユーザー情報を集めない情報推薦システムを実験
クライアント側で動作するアプリによる情報推薦は、Googleニュースに劣る研究結果がある。プライバシーは守れても精度が低いテクノロジーに価値はあるのだろうか? by Rachel Metz2017.01.24
パーソナライゼーションは、ユーザーが使うアプリやWebサービス、デジタル・アシスタントを個人に合わせて最適化する機能のことだ。しかしパーソナライゼーションされたサービスを提供するには、個人に最適化するため、ユーザーに関するデータを大量に収集することになり、プライバシーの懸念がある。そこで研究者が有望な代替策を発案した。ユーザー情報に基づいて、ユーザーが興味を持ちそうなニュース記事を提案するが、パーソナル情報は一切サーバーに送信されないのだ。
ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校とIBMの研究者が開発したPrIA(Private Intelligent Assistant)には、ノートPCとアンドロイド・スマホが1台ずつ必要だ。ノートPCとスマホでユーザーのツイッターや フェイスブック、Chromeからデータを収集し、ユーザー・プロファイルを作成する。プロフィル情報はクラウド上ではなく、オフライン状態でローカルに保存される。たとえば、ノートPC側のアプリがGoogleアカウントにログインしない状態でGoogleニュースからニュース記事をダウンロードしたとしよう。ノートPC側のアプリは、ユーザーが所有する機器にだけ保存されたプロファイル情報に基づいてユーザーが読むはずの記事を選んで推薦リストを作成し、スマホ側で動作するアプリに送信する。
ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校のアルナ・バラスブラマニアン准教授(コンピューター科学)は「重要なのは、ユーザーの嗜好はユーザー自身の携帯電話とノートPCにしかないことです」という。バラスブラマニアン准教授は、開発プロジェクトに関する論文の筆頭著者で、プロジェクトはカリフォルニア州ソノマで2月に開催されるモバイル・コンピューティング会議で発表予定だ。
アプリの推薦機能の精度を調べるため、協力者6人のノートPCとスマホにアプリをインストールし、Googleニュースの記事の推薦結果と比較する小規模な調査を研究者が実施したところ、10日間の調査で、アプリによる推薦結果はGoogleニュースより14%ほど評価が低かった。バラスブラマニアン准教授は「これはやむを得ない代償です」という。
しかし、アルゴリズムを調整し、ユーザーに関するもっと多くのデータ(電子メールなど)を参照すれば、ユーサーの個人情報を機器内から出さずにサービスを改良できる余地がある、と研究者は考えている。
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クレジット | Image courtesy of Pria |
- レイチェル メッツ [Rachel Metz]米国版 モバイル担当上級編集者
- MIT Technology Reviewのモバイル担当上級編集者。幅広い範囲のスタートアップを取材する一方、支局のあるサンフランシスコ周辺で手に入るガジェットのレビュー記事も執筆しています。テックイノベーションに強い関心があり、次に起きる大きなことは何か、いつも探しています。2012年の初めにMIT Technology Reviewに加わる前はAP通信でテクノロジー担当の記者を5年務め、アップル、アマゾン、eBayなどの企業を担当して、レビュー記事を執筆していました。また、フリーランス記者として、New York Times向けにテクノロジーや犯罪記事を書いていたこともあります。カリフォルニア州パロアルト育ちで、ヒューレット・パッカードやグーグルが日常の光景の一部になっていましたが、2003年まで、テック企業の取材はまったく興味がありませんでした。転機は、偶然にパロアルト合同学区の無線LANネットワークに重大なセキュリテイ上の問題があるネタを掴んだことで訪れました。生徒の心理状態をフルネームで記載した取り扱い注意情報を、Wi-Fi経由で誰でも読み取れたのです。MIT Technology Reviewの仕事が忙しくないときは、ベイエリアでサイクリングしています。