中国は現地時間11月24日の早朝、南シナ海の海南島にある国内の発射場から月探査機「嫦娥(じょうが、Chang’e)5号」を月へ打ち上げた。科学的な研究のために月表面から土や岩石のサンプルを地球に持ち帰ることを目指している、同国史上初のミッションである。
嫦娥5号は周回機、着陸機、上昇機、帰還カプセルという4つの部分から構成されており、11月27日に月に到着する予定だ(日本版注:中国国家航天局によると11月28日に月周回軌道に入り、同30日に結合体の切り離しに成功。1日に着陸した)。搭載されている電子機器を月の夜間の極めて低い温度から保護できるような加熱装置がないので、今回のミッションでは14日間(月の昼間に相当する期間)以内にサンプルを回収し、地球への帰還を開始しなければならない。
着陸機は、月の表側の西端にある「嵐の大洋(Oceanus Procellarum)」エリアの溶岩ドーム「リュムケル山(Mons Rümker)」付近の地面に着陸する。着陸機は、月面から少なくとも約2キログラムの土壌を採取する予定だ。まず、地中約2メートルまで穴を掘り、月の土壌コアを収集する。それから、ロボットアームで、表面自体からも土壌を採取する。近赤外線分光器と地中探知レーダーにより、土壌がまだ地面にあるうちに分析するとともに、重い石や有害な石がサンプルに含まれないようにする。
採取したサンプルは、上昇機に収容して上空の周回機まで運ぶ。周回機はその後、帰還カプセルにサンプルを収容する。帰還カプセルは12月17日までに地球に帰還し、内モンゴルのいずれかの地点に着陸することになっている。
リュムケル山周辺のエリアには10億年より少し前の岩石が存在すると考えられており、月から地球に持ち帰られた岩石としては最も年代の新しいものになる可能性がある。アポロミッションで持ち帰られた30億~40億年前の岩石よりもかなり新しい。科学者はそれらのサンプルを基に、月の歴史について理解を深めることができるだろう。月が時間とともにどのように冷え、磁場がどのように消えたかといった疑問を解くヒントが得られるかもしれない。米議会は現在、米国航空宇宙局(NASA)が中国と協力したり、中国がアポロミッションの岩石を利用したりすることを禁止しているため、中国の科学者が自ら月の物質を直接調べるのは初めてのこととなる。
今回のミッションが成功すれば、中国は、米国と旧ソ連に続いて、月面物質の地球への持ち帰り(サンプルリターン)に成功した3番目の国となる。月のサンプルが最後に地球に帰還したのは、1976年の旧ソ連の「ルナ(Luna)24号」ミッションだった。サンプルリターンのミッションは今でも非常に難易度が高いため、嫦娥5号が成功すれば、中国最高峰の技術的な成果の1つとなるだろう。
嫦娥5号は、非常に大きな成功を収めている月探査プログラムである「嫦娥計画」における最新のミッションだ。同計画の成果としてこれまでに一番の話題となったのは、月の裏側に無事着陸した史上初めての探査機となった「嫦娥4号」である。それまでほとんど観察できなかった月の裏側に関する、興味深い科学知見がすでにかなり得られている。中国における月のサンプルリターンミッション第2弾として予定されている「嫦娥6号」は、2023年か2024年の打ち上げを予定している。