ファイザーがワクチン緊急使用許可を申請、クリスマス前に供給へ
ファイザーは新型コロナウイルスのワクチンを開発している製薬会社で初めて、米食品医薬品局に緊急使用許可を申請した。同社は、治験の最終段階ではワクチンに95%の有効性が示されたと主張しており、承認されたら「数時間以内」に供給を開始できると述べている。 by Antonio Regalado2020.11.27
製薬大手ファイザーは11月20日、米国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンを供給するための緊急使用許可(EUA)を米食品医薬品局(FDA)に申請し、政府の認可が下り次第「数時間」以内にワクチンの出荷を開始する準備が整っていると発表した。現在、新型コロナワクチンを開発中の製薬会社の中でこの種の使用許可を申請するのはファイザーが初めて。
ファイザーによると、承認された場合、最初にワクチン接種を受けるのは医師、看護師、その他のエッセンシャルワーカーになる可能性が高い。クリスマス前に供給を開始できる可能性があるという。ファイザーはまた、カナダ、欧州連合(EU)、および日本の規制当局とも情報を共有している。
ファイザーのアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)は発表の中で、同社は「248日間昼夜を問わず」ワクチン開発に取り組み、米国、トルコ、南アフリカの150か所で4万3661人の被験者が治験に参加したと伝えた。治験の最終段階では、ワクチンに95%の有効性が示されたと主張している。
ファイザーとそのパートナーであるドイツ企業のバイオンテック(BioNtech)は、年内に約5000万回分、2021年末までには13億回分のワクチンを供給できると考えている。ワクチンは数週間の間隔をあけて計2回接種する必要がある。「認可取得後、数時間以内にワクチンを配布する準備が整っています」とファイザーは述べている。
ファイザーのワクチンは米国初の認可取得ワクチンとなる可能性があるが、それでもファイザー以外の複数の企業のワクチンが必要だとワクチン関連団体はいう。1社または1つのテクノロジーで全世界のワクチン需要を満たすことは不可能だからだ。
ファイザーのワクチンの他にも、マサチューセッツ州に本拠を置く製薬会社のモデルナ(Moderna)が開発中のワクチン、臨床試験の最終段階にあるアストラゼネカ(AstraZeneca)とオックスフォード大学が共同開発中のワクチン、そして中国とロシアですでに承認されている複数のワクチンなどがある。
1年足らずで新しい病気のワクチンの開発を達成したことは、あらゆる記録を打ち破る偉業だ。しかし、感染者数が記録的な水準に達している米国と欧州で、新型コロナウイルス感染症の冬の感染拡大を阻止するための対策としては間に合わない。米国だけでも1日あたりの新規感染者数は17万人を超えている。検査を受けていない感染者を考慮すると、毎日50万人の米国人が新型コロナウイルス(SARS CoV-2)に感染していると考えられる。
初期のワクチン供給量は限られているため、多くの一般人がファイザーまたは他社のワクチンを接種できるのは2021年半ば以降になる。つまり、今のところは新型コロナウイルスを回避するには、他人を回避する必要があるということだ。米国疾病予防管理センター(CDC)は11月26日の感謝祭の休暇に旅行を控えるように国民に呼びかけた。
ファイザーがワクチン販売の承認を求めたことで、「緊急使用許可」と呼ばれるファスト・トラック承認を与えるか否かは米国食品医薬局次第になった。12月に招集される諮問委員会で、ワクチンの有効性をまとめたファイザーのデータが評価される予定だ。
ワクチンの緊急承認には疑問を示す専門家も存在する。多少時間のかかる正式な承認プロセスの方が一般の人々の間でワクチンへの信頼が高まるだろうという考えだ。
米国食品医薬局が3月以降、緊急使用許可で販売を認可した新型コロナウイルス感染症に対する治療法は4種類ある。抗マラリア薬のヒドロキシクロロキン、回復患者の血漿、抗ウイルス薬のレムデシビル(remdesivir)、および抗体である。いずれの場合も限られた証拠に基づいて決定された認可で、実際に患者の死亡を防ぐ効果については議論が続いている。
ファイザーのワクチンは、新型コロナウイルスの遺伝子情報の一部を脂質ナノ粒子内に包み込む新しい技術(日本版注:「mRNAワクチン」と呼ばれる)を採用している。ワクチンを接種すると、体内の細胞がその遺伝子情報を使用して新型コロナウイルスの「スパイク」タンパク質を作り出す。すると、免疫系がスパイクタンパク質に対する抗体を産生し、新型コロナウイルスを認識できるようになる。
ファイザーによると、ワクチンは米国と欧州の複数カ所で製造および配布が可能だ。ワクチンは-70°Cで保存する必要があるため、GPSで追跡される特殊な超低温輸送ボックスで配布されることになる。
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- アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]米国版 生物医学担当上級編集者
- MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。