ファイザーの新型コロナワクチン「9割に効果」、供給には課題
製薬会社のファイザーは11月9日、接種した人の約90%に有効な新型コロナウイルス・ワクチン候補を開発したと発表した。同社は今月中にワクチンの販売許可を申請するが、年内に供給できるワクチンは2000万人分としており、当分は社会的距離やマスク着用などの対策を続ける必要がありそうだ。 by Antonio Regalado2020.11.10
製薬会社ファイザーによると、同社が開発中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のワクチン候補には、90%の効果があるという。つまり、接種者のほとんどに予防効果があるということだ。
この結果が真実であれば、世界中の企業と学校を閉鎖に追い込んだ新型コロナウイルスのパンデミックから脱出する出口が見えてきたことになる。ただし、2021年に入ってもしばらくはワクチンの供給量は限られる可能性が高い。つまり、ほとんどの人は、このワクチンをすぐに接種することはできない。
大規模な治験が実施されているワクチンは十数種類あるが、4万人以上が参加するファイザーの治験が最初に結果を出した。「今日は科学にとってすばらしい日であり、人類にとってすばらしい日です。開発中のワクチン候補に90%の有効性が出たとは驚きです」。ファイザーのアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)は米ニュース専門放送局CNBCのインタビューで語った。「トンネルの先に光が見えてきました」。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によると、規制当局がデータを確認する必要はあるものの、同社は今月中にもワクチンの販売許可を申請できる見通しだという。ファイザーは11月9日のプレスリリースで暫定結果を発表したが、治験の完全なデータは公表していない。
「これは本当に優れた結果です。並外れた結果です」。米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID:National Institute of Allergy and Infectious Diseases)のアンソニー・ファウシ所長はワシントンポスト紙でこう語った。
ファイザーがドイツ企業のバイオンテック(BioNTech)と共同で開発しているこのワクチンは、まだ広く実証されていない新しい手法を使用している。従来のワクチンは弱毒化したウイルスまたはウイルスの一部を利用するが、ファイザーのワクチンは遺伝情報を伝えるRNAを利用している。
このワクチンを接種すると、体内細胞がワクチンの遺伝情報を使って「スパイクタンパク質」と呼ばれる新型コロナウイルスの一部を作り出し、免疫反応を引き起こす。
RNAワクチンは対象ウイルスの遺伝情報を利用して作用するため、製薬会社のモデルナ(Moderna)を含むRNAワクチンメーカーはこの春、いち早くワクチン候補を開発した。いくつかの企業は、米政府主導のワクチン開発プロジェクト「ワープ・スピード作戦(Operation Warp Speed)」の一環として大規模な治験を実施するために国の資金提供を受けたが、それとは別に独自に治験を実施したファイザーが結局、競争に打ち勝った。
ファイザーは7月に、1億回分のワクチンを19億5000万ドル、つまり1回の投与あたり20ドル弱の費用で米政府に販売することに合意しており、他の国々と同様の販売契約を結んでいる。米国は最終的に最大6億回分を購入する権利を持っている。
RNAワクチンの欠点の1つは、超低温で保管する必要があり、配布が困難なことだ。生産が面倒でもある。
ファイザーは2020年末までに供給できるワクチンは約2000万人分のみだと発表した。同社は2021年末までには接種13億回分を供給できると見込んでいる。1人2回接種すると考えると、約6億5000万人分だ。
各国は最初にワクチン供給を受けることを望んでいるが、ファイザーが最初のワクチンをどのように配布するかは不明だ。バイオンテックの創業者であるウグル・サヒンCEOはフィナンシャル・タイムズ紙に対し、ファイザーとバイオンテックは規制当局が接種を正式認可する地域を優先する「公正なアプローチ」を採用するだろうと語っている。
治験では、新型コロナウイルスに感染したことのない参加者がワクチンまたはプラセボを2回接種した。それから医師は誰が新型コロナウイルスに感染するか、経過を観察した。ファイザーとバイオンテックによると、治験ではこれまで94人が新型コロナウイルスへの感染を確認されている。
同社が主張する90%の有効性とは、感染者のほぼすべてがプラセボ接種者であり、ワクチン接種者も少数感染したことを意味する。「これは本当に驚異的な数値です」とイェール大学の免疫学者である岩崎明子教授はニューヨーク・タイムズ紙に語った。
ファイザーの主張が正当で、安全性に問題が見られない場合は、新型コロナウイルス・ワクチン全般がパンデミックに対する強力な対抗策になると考えられる。比較のために言うと、毎年のインフルエンザ・ワクチンは、米国疾病予防管理センター(CDC)によるとインフルエンザ様疾患を予防する効果は約50%しかない。
この秋、ファイザーと同社のブーラCEOは、良好な結果を時期尚早に発表したり、大統領選挙投票日前にワクチンの承認を急いだりしないようにという大きな圧力を受けた。このキャンペーンはカリフォルニア州サンディエゴのスクリプス研究所(Scripps Research Institute)に勤めるエリック・トポル医師を含む医師グループが公けに主導したものであり、医師グループは、臨床試験データがホワイトハウスによって政治的に利用されることを懸念していた。
結局、ファイザーはデータの公表を遅らせることを選択したが、その決定自体が政治への影響を与えた可能性がある。今回ファイザーが発表した結果が非常に優れていたことを考えると、10月下旬にすでに良好なデータが出ていたと思われる。その時期に良好なニュースを発表していれば、ドナルド・トランプ大統領とジョー・バイデン候補者が戦った大統領選挙の投票に影響を与えたかもしれない。
大統領選を戦った2人は11月9日に声明を発表し、ファイザーのワクチンのニュースを取り上げたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する見通しは大きく異なっていた。
トランプ大統領は、「株価大幅上昇、ワクチン近日中。効果90%の報告。すばらしいニュース!」とツイートした。
ジョー・バイデン次期大統領はツイッターにも投稿した自身の声明の中で、開発に関与した科学者を祝福した。しかし同時に、「米国でワクチンが普及するまでにはさらに何カ月もかかるでしょう」として、国民は社会的距離、手洗い、マスク着用で新型コロナウイルス対策を続ける必要があると警告した。
「当面の間、新型コロナウイルスに対して強力な武器は引き続き、ワクチンよりもマスクです」とバイデン次期大統領は語った。
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- MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。