米国中の何百万人もの有権者が、大統領選挙日には家に留まるように勧めるロボコール( 自動音声による電話)やテキストメッセージ(SMS)を受け取った。専門家はこれは明らかに、激戦となった2020年の大統領選挙の投票者数を抑制しようとする企てだと考えている。
選挙戦中にデマを広めたり、混乱の種をまいたりするためにそうした戦法を使うのは今に始まったことではない。今回の大統領選挙で、以前の選挙よりも多くロボコールやでキストメッセージが使われたのか否か、あるいはそれらが実際に投票者数にどんな効果をもたらしたのかは、まだはっきり分かっていない。
しかし、2016年の大統領選挙の後、ソーシャルメディアでの選挙関連のデマが厳しく監視されるようになった。今回の選挙で悪意ある行為者は、電話やテキストメッセージ、電子メールといった個人的な通信手段をより活用しているかもしれないという憶測はある。
11月3日、ミシガン州の当局者は朝早くから有権者に対し、警告を発した。警告の内容は、フリント市の住民にかかってきた、大統領選挙日の長蛇の列を避けるために11月4日に投票するよう勧める多数のロボコールを無視するようにというものだ。一方、ワシントンポスト紙の報道によると、選挙日までの数日間に、「自宅で安全に待機しよう」と勧める約1000万件のロボコールが米国中の有権者にかかったという。
ニューヨーク州のレティシア・ジェームズ司法長官は、同長官の事務所は「デマを広めるロボコールを有権者が受け取っているという申し立てを鋭意調査しています」と語っている。サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)の高官は11月3日、米国連邦捜査局(FBI)もロボコールの事案を調査していると報道陣に述べた。FBIはこれを認めることを控え、声明で「ロボコールについての報道は知っていますが、それ以上のコメントはできません。注意喚起として、受け取った選挙や投票に関する情報は、地域の選挙管理人を通じて確かめることを米国民に勧めます」と述べた。
政治演説の目的でロボコールを使用することは、米国では米国憲法修正第1条の「表現の自由」の規則の下に広く保護されている。しかし、前述のような事案は、選挙時の脅迫と介入に関する州や連邦の法律に違反するかもしれない。特に、そういった行為を画策する集団が特定の選挙陣営を支持する活動をし、反対陣営に加わりそうな有権者をターゲットにしていれば該当するとハーバード法科大学院のレベッカ・タシュネット教授は言う。
問題となるのは、責任を負うべき集団の追跡であると述べるのは、ノースカロライナ州立大学のコンピューター科学の助教授で、ウルフパック・セキュリティ・アンド・プライバシー・リサーチ研究所(Wolfpack Security and Privacy Research Lab.)の一員であるブラッド・リーブスだ。
こういった電話の発信元は、異なる技術的プロトコルを持つさまざまな通信ネットワークを通じて呼び出しが切り替わるため、はっきりしないことが多い。しかし、発信元が米国である限り、通信会社との十分な連携によって一般的には確定できる。
実は、昨年後半にドナルド・トランプ大統領は、「TRACED Act(Telephone Robocall Abuse Criminal Enforcement Act、 電話ロボコール濫用犯罪取締法)」の制定に署名した。異なるネットワークに渡って永続的に残る一種のデジタル指紋を作り出すことにより、ロボコールの発信源を突き止めるのをより容易にするというものだ。しかし、難しい問題の1つとして、多くの通信事業者が今なお設置している、より古い通信インフラでは上手く動作せず、海外拠点の犯罪者の取り締まりにはあまり役立たないだろうとリーブス助教授は述べる。
タシュネット教授としては、そういった行為を積極的に調査し、適時に起訴することが重要だと述べる。今年の選挙で効果を発揮するにはすでに遅すぎるが、今後数年は、同様の行為を思いとどまらせられるかもしれない。「そうした行為は全くの詐欺行為であり、純然たる悪事であり、言い逃れはできません」とタシュネット教授は言う。唯一の問題は、ロボコールの濫用を防ぐために、「どういったリソースをつぎ込むか」だ。