主張:「節税」目的の自動化は社会の利益にならず、中立的な税制を
現在の米国の税法は人よりもAIを優遇している。資本よりも労働力の方が重く課税されているからだ。企業が節税を目的としてAIを導入するのであれば、生産性が向上することもないし、消費者や社会の利益にもならないだろう。書籍『The Reasonable Robot: Artificial Intelligence and the Law(合理的なロボット:人工知能と法)』からサリー大学法学部教授のライアン・アボットの主張を紹介する。 by Emily Luong2020.10.29
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが猛威を振るって大きな被害をもたらしているうえに、人種的偏見や政治的二極化といった長年続く問題も頭をもたげている。人工知能(AI)なら、こうした課題の対処に一役買ってくれるかもしれない。だが、AIのリスクもますます明らかになってきた。これまでの研究で、AIの不透明性や説明能力の欠如、設計上の選択によりバイアスをもたらし得る問題、個人の幸福や社会的相互作用に対する悪影響、そして、個人、企業、国家間のパワー・ダイナミクスが変化して不平等が増大するといった事例が示されてきた。AIの開発や使用が適切な方法でなされるか、有害な方法でなされるかは、それを管理し規制する法的枠組みによって概ね決まってくるだろう。
AIの規制には、新たな指針があるべきだ。AIと人間の行動を差別しないよう注意する、AIに対する法的中立性の原則である。現在のところ、法制度は中立とは言えない。自動車の運転に最適なのは人間よりも格段に安全なAIかもしれないのに、既存の法律では無人運転自動車が禁止されてしまうかもしれない。同じようなコストであればロボットよりも人間の方が高品質の製品を製造できるかもしれないのに、節税という理由で企業は自動化を選ぶかもしれない。特定の種類のイノベーションについてはAIの方が優れているかもしれないのに、AI使用により知的財産権の所有権が制限されてしまうのであれば、企業はAIを使おうとしないかもしれない。こうした例を鑑みると、AIが法的に中立的に扱われることになれば、最終的には人間の幸福に利益をもたらすことになるだろう。法律がその根本的な政策目標を達成しやすくなるからだ。
米国の税制を考えてみるといい。AIと人間は同じ種類の商業的生産活動に従事しているというのに、その勤務先である企業や事業は、誰が(何が)仕事をするかによって異なった税を課されている。たとえば、企業は自動化によって雇用主負担の給与税を回避できるようになる。つまり、チャットボットのコストが、それと同じくらい(あるいはややそれ以上)の仕事をする従業員の税引前のコストと同じくらいだとしたら、税引後のコストを計算すると、企業にとっては自動化した方が安上がりになるというわけだ。
給与税の回避に加え、企業は、AIが物理的なコンポーネントを持っていたり、ソフトウェアに対する特定の例外に該当する場合には、一部のAI向けの税額控除を前倒しできる。言い換えれば、雇用主は、一部のAIのコストの大部分を前倒しで税額控除として請求できるのだ。その果てに、雇用主は自動化するという理由でさまざまな税制上の優遇措置を間接的に受けることもできる。要するに、税法は自動化の促進を目的として制定されたわけではないにもかかわらず …
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