「牛はペットになる」
研究者倍増計画を打ち出した
インポッシブルフーズの野望
植物由来の人工肉のシェアを伸ばし続けている米国企業インポッシブル・フーズは、研究体制を大幅に強化する。MITテクノロジーレビューのインタビューに応じたパット・ブラウンCEOは大胆な最終目標を語った。 by James Temple2020.10.28
インポッシブル・フーズ(Impossible Foods)は、コロナ禍でも拡大し続けている。植物由来でありながら、ジュージューと焼けた血の滴るようなハンバーガーとソーセージの納入先は、2020年中に米国内で1万店以上増加している。
2020年に7億ドルを調達したインポッシブル・フーズは、新たな市場と製品ラインに着手する体制を整えている。新たに約150名の科学者とエンジニアを加え、今後12か月間で研究開発チームを倍増させる計画を発表した。本計画には、「インポッシブル・インベスティゲーター(Impossible Investigator)」という10の新しい任務が含まれる。これは、各自の研究プログラムの提案を認めることにより、トップクラスの研究者たちを呼び寄せるために設計されたものだ。
インポッシブル・フーズは記者会見の中で、開発中の商品のプロトタイプである植物由来の「代替牛乳」も発表した (発売日は未定)。
スタンフォード大学の生化学者であるパット・ブラウン教授によって2011年に設立され、カリフォルニア州レッドウッドシティに拠点を置くインポッシブル・フーズは、特定の酵母から遺伝子工学と発酵によって大量のヘムを生み出すことで、本物そっくりな代替牛ひき肉を開発した。インポッシブル・フーズによると、鉄分を含む化合物であるヘムは、牛ひき肉の色と味を再現するうえで大きな役割を担っているという。
現在では、バーガーキングを含む何万店舗ものレストランがインポッシブル・バーガーを提供している。
会社設立にあたってのブラウン教授の使命は、畜産業による環境への悪影響を緩和することだった。国連食糧農業機関によると、世界の温室効果ガスによる大気汚染の約14.5%は畜産業が生み出しているという。
MITテクノロジーレビューのインタビューで、ブラウン教授は大胆な最終目標を提示した。それは、主要な動物性食品の代わりとなる食品を十分な量提供することで畜産業全体を廃業に追い込み、畜産から生じる排泄物を世の中から一掃するという内容だ。現在、インポッシブル・フーズは、鶏の胸肉やステーキに代わる本物そっくりな代替肉の開発に注力しているという。
以下のインタビューは、記事の長さと分かりやすさを考慮して編集されています。
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——研究開発チームを拡大するのはなぜですか?
私たちの使命は、世界で最も環境を破壊しているテクノロジーである動物を用いた産業を、2035年までに完全に置き換えることです。私たちが現在動物から得ているあらゆる食品を生産するための完璧な技術基盤を構築できるかどうかに、当社の命運がかかっています。それだけでなく、代替食品をより美味しく、栄養価が高く、手頃で、持続可能なものにするという部分も重要です。
——現在解決しようとしている研究上の主な課題は何ですか?
私たちは、植物や植物由来の原料を、まったく植物とは感じさせずに、消費者にとっては肉そのものに思えるものに変えるための技術基盤を構築しています。
そのために重大な要素は二つあります。一つは、生き生きとした風味や香りを作るための生化学的機構、もう一つは、材料科学の観点からは若干風変りともいえる、非常に精密な特性を持つ材料です。
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