米国下院諜報活動常任特別委員会(以降、特別委員会)が10月15日に開いた90分間のオンライン議会公聴会で、議員たちは米国における誤情報の状況を把握し、この分野を代表する専門家の助言を仰いだ。議員たちが公聴会で聞いたのは、真実の状況、政治的分断、特に「Qアノン(QAnon)」を中心とする陰謀論の拡散に関する、緊急かつ憂慮すべき警告だった。
「多くの面で、我々は一歩進んで、二歩下がってしまったようです」
―アダム・シフ下院議員
同日、テレビ放映された対話集会で、トランプ大統領はQアノンについて「何も」知らないが、その中心理念の1つには同意すると述べた。
アダム・シフ下院議員が議長を務める特別委員会の公聴会では、4人のデマの専門家が証言をした。ハーバード大学の研究者でMITテクノロジーレビューの定期寄稿者であるジョアン・ドノバン博士、中央欧州と東欧の民主主義とテクノロジーについて研究しているニーナ・ヤンコビッツ、米国中央情報局(CIA)の元高官シンディ・オーティス、シンクタンク「ISD(Institute for Strategic Dialogue)」のメラニー・スミス特別研究員だ。4人は選挙において悪意ある行為者の増加や誤情報の拡散について議論し、その大半は国内で発生したと指摘した。オーティスは、彼らは「優れたデジタル選挙戦術を取り入れているのではなく、外国が影響力を及ぼそうとする作戦のような戦術を採用し、展開しています」と指摘した。
共和党は、この公聴会に参加しなかった。実際、特別委員会の共和党議員たちは、数カ月にわたってほぼすべての会議をボイコットしている。ヤンコビッツはデマの非政治化を訴え、「デマはどの政党を利するにせよ、民主主義への脅威」だと述べた。証言者たちとシフ議長は、トランプ大統領がデマを定期的に生み出し、共有させ、増幅させていると指摘した。
10月15日の夜、NBCで放送された対話集会でトランプ大統領は、民主党の上層部が児童虐待と人身売買といった非人道的な所業に関わっているというねつ造論を唱えるQアノンを否定するか、と問われた(この集会は、大統領が新型コロナウイルス感染症の検査で陽性になったことへの懸念により、2回目の大統領候補者討論会が中止になった代わりに実施された)。最初に大統領は「Qアノンについては何も知りません」と述べたが、その後「(Qアノンを唱えている人たちが、)小児性愛に真っ向から反対していることは知っています」と付け加えた。NBCの司会者で弁護士のサヴァンナ・ガスリーのQアノンに関する数々の質問に対して「必ずしも、それが(Qアノンの)真実だとは限りません」と主張した。
公聴会で証言した専門家らは、オンラインで流されるデマがかつてないほど拡散しており、より洗練され、微妙なニュアンスを帯び、監視が難しくなっていると述べた。グループやプラットフォームを超えた形で連携したメッセージの発信や、信頼性の高い地域情報源を通じた情報ロンダリング(情報の出所を隠し、正しい情報だと見せる)、監査の及ばない閉じた空間でデマが拡散するために発見や削除が難しい「隠れバイラリティ」といった、新しい傾向を専門家たちは強調した。
さまざまな解決策が提示されたが、その大半は法案審議中となっている。代表的なのは、ユーザーが作成したコンテンツに対して、インターネット・プラットフォームの責任を免除している米国通信品位法230条の改正や、ソーシャルメディア企業の税制優遇措置の廃止、SNSに説明責任の仕組みを導入するといったものがある。公聴会の証言者たちは、推奨アルゴリズムの再設計や、オンラインでデマに遭遇したユーザーがより簡単に通報できる機能の導入などを訴えた。
公聴会の最後にシフ議長は「4年前と現在を比べてみると、多くの面で我々は一歩進んで、二歩下がってしまったようです」と述べた。実際、この公聴会から1日も経たないうちに、トランプ大統領は陰謀論の信奉者たちを、またしても喜ばせるような発言をしている。