世界初、15°C「室温超伝導」達成 夢の新技術へ突破口
ロチェスター大学の研究チームが、水素、硫黄、および炭素を含む化合物で室温超伝導を達成した(287.7K、約15°C)。ただし、超高圧力下での達成であり、実用化にはまだ課題がある。 by Konstantin Kakaes2020.10.19
室温超伝導体(特別な冷却を必要とせずに電気抵抗ゼロで電気を流す物質)は、日常生活に大転換をもたらす驚異的なテクノロジーといえる。送電網に革命をもたらし、超伝導リニアを実現し、その他にも数多くの応用が考えられる。しかし、超伝導体は極低温に冷却する必要があり、(重要なテクノロジーではあるが)ニッチなテクノロジーとして特殊な用途に限られてきた。何十年もの間、室温超伝導は永遠に実現不可能かもしれないと考えられてきた。しかし、この5年間、研究室での室温超伝導の実現を目指して世界中で複数の研究グループが競い合っている。
そしてついに、ある研究グループがその競争を制した。
10月14日に「ネイチャー(Nature)」誌に掲載された研究論文で、最高287.7K(約15°C)の温度で、水素、硫黄、および炭素を含む化合物で室温超伝導を達成したことがロチェスター大学研究チームによって報告された。これまでの最高温度の記録は、2018年にジョージワシントン大学とワシントンD.C.のカーネギー研究所の研究グループが達成した260K(約マイナス13°C)だった(ドイツのマックスプランク化学研究所の別の研究グループがほぼ同時期に250K、すなわち約マイナス23°Cを達成)。これまでの他の記録と同様に、今回の新記録は地球の大気圧の約250万倍の超高圧力下で達成された。
「画期的なことです」。ローマ・ラ・サピエンツァ大学の計算物理学者で高温超伝導を説明するモデルを作成しているホセ・フローレス=リバス助教授は言う(フローレス=リバス助教授はロチェスター大学の研究には直接関与していない)。「200Kから250K、そして290に記録が更新されました。今後1、2年の間に300Kに到達すると確信しています」。
電流は、電子に代表される電荷の移動だ。銅線のような導体には、緩く結合した電子が数多く存在する。電界が加えられると、電子は比較的自由に流れるが、銅のような良導体でさえ電気抵抗が存在する。電気が流れると導体の温度は上がる。
超伝導は電気抵抗がゼロになる現象で、一見不可能に思える。まるで、混雑した市内中心部を信号に一度も引っかかることなく、車を高速で走らせるようなものだ。しかし、1911年にオランダ人物理学者のヘイケ・カメルリング・オネスは、絶対零度(約マイナス273℃)をやや上回る温度まで冷却した水銀が超伝導体になることを発見した。オネスはその後すぐ、スズや鉛のような他の金属でも超伝道状態を確認した。
それから何十年もの間、超伝導は極低温でのみ実現されてきた。その後、1986年後半と1987年初めに、IBMチューリッヒ研究所で特定のセラミックスの酸化物が92Kの高温で超伝導体になることが発見された。液体窒素の沸点である77Kを超 …
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