KADOKAWA Technology Review
×
【冬割】 年間購読料20%オフキャンペーン実施中!
トランプ大統領発のデマ、中立謳うマスコミが拡散に加担
AP Photo/Alex Brandon
Mainstream media is the biggest amplifier of White House disinformation

トランプ大統領発のデマ、中立謳うマスコミが拡散に加担

「郵便投票は不正につながる」とのトランプ大統領発のデマが拡散されている。新たな研究によると、中心的役割を果たしているのはソーシャル・プラットフォームや外国勢力ではなく、大統領のツイートを無批判に報じる米国のマスメディアだという。 by Patrick Howell O'Neill2020.10.25

トランプ大統領がデマを撒き散らしているにもかかわらず、それはデマキャンペーンとは呼ばれていない。

「最も単純なデマは、政治目的のために流布された明らかに虚偽、または誤解を招く恐れのある情報です」とハーバード大学のヨハイ・ベンクラー教授(法学)は言う。同教授が率いるチームは最近、デマがどのように増幅するかについて分析した。

ベンクラー教授は研究で、郵便投票は広範な不正投票を招くというトランプ大統領の主張についてとりあげた。

「郵便投票が大規模な不正につながるという主張が誤りであることに疑いの余地はありません」とベンクラー教授は話す。「長年の研究によって形成されてきたコンセンサスであり、トランプ大統領のデマキャンペーンが4月に始まる前からそのことはすでに知られていることです。しかし、トランプ大統領が言うように、郵便投票が米民主党を助けることになる、と考える人たちがいる。ある人が特定の候補者を選挙で勝たせたいという目標を持ち、その目標をかなえようとする過程で、虚偽や誤解を招く情報を広める行動を長期間、何回も繰り返しています。これをデマキャンペーンと呼ばずして、何と呼べばいいのでしょうか?」

ベンクラー教授のチームが発表したばかりの研究では、大統領の郵便投票に対するデマキャンペーンを分析し、大統領が目標達成のために使っている方法やそれに追随している人々について詳しく述べられている。分析結果によると、米国のマスメディアの超大物や政治エリートの一部がデマキャンペーンで主要な役割を果たしており、ソーシャルメディアは二次的な役割しか果たしていないことが明らかになった。今回の結果は、外国の「荒らし工場」がもっぱら卑劣なデマを拡散させている、という一般的な考え方に反するのものだ。

研究では、5万5000本のメディア記事、500万件のツイート、フェイスブックの7万5000件の投稿を分析した。結果は2015年から2018年までの研究と同様に、今回のデマの中心的存在は、ロシアによる荒らしではなく、ドナルド・トランプ大統領とフォックス・ニュース(Fox News)だということだ。研究者はデマキャンペーンを緻密に解明し、テレビやツイッター、または大統領に近しい人による発言なども含め、デマキャンペーンを繰り返す犯人は、トランプ大統領自身だと明確に示した。

 

ハーバード大学のバークマン・センター(Berkman Klein Center)の研究者は、郵便投票による不正についての記事を掲載しているオンライン・メディアを緻密に解明した。大きな円は、他のメディアから郵便投票による不正関連の記事にリンクされた数を反映している 

ソーシャルメディアに対するロシアの干渉やクリックベイト(扇情的なタイトルや画像でクリックを促すリンク)について多くの警鐘が鳴らされてきた、とベンクラー教授はいう。しかし「2016年時点でも現在でも、マスメディアの方がはるかに重要な役割を果たしていると考えています」。

マスメディアの記事はどうしてもホワイトハウスを注目せざるを得ず、米国の新聞はデマを劇的に増幅させてしまう。トランプ大統領の行動をデマキャンペーンと呼ぶことは、大統領の行動を報じることが公正性と等しいかのように中立を装う一部のジャーナリストにとっては非常に難しいだろう。

しかし、デマキャンペーンによる影響は実際に出ている。国民の健康危機の最中において郵便投票は選挙への参加を容易にしており、郵便投票という方法を弱体化または排除するための正当な理由としてデマが使われている。まぎれもなくテキサス州などで使われている戦術だ。

だが、解決策はある。研究では「根本的な治療法」は、マスメディアが大統領のデマをより積極的に規制することだと主張している。

ベンクラー教授は、多数の米国人が不正選挙があると信じる一方、説得可能なグループも数多く残っていると話す。不正選挙について何が真実かを確信しておらず、ネットニュースを見たり、AP通信のようなマスメディアによる報道を集約した地方紙を読んだりしている人たちだ。

つまり「唯一、デマキャンペーンに対して意味のある行動のできるのは、マスメディアのニュース編集者とジャーナリストです。社会の中で最も注意力が低く、最も政治への関与が薄い人々が政治ニュースを読む際に利用するメディアに携わっているからです」とベンクラー教授は指摘する。

解決策には、大統領によるデマの問題に明確かつ直接的に取り組み、偽りの中立を回避することが含まれる。読者が不正投票の実態をよく知るニューヨーク・タイムズ紙でさえ、時折、軽々しく無批判な記事を掲載することがある。例えば、テキサス州が郵便投票受付所を閉鎖したことに関する最近の記事の1つで「テキサス州知事、不正投票防止を理由に郵便投票受付所を各郡1カ所に削減」という見出しをつけ、郵便投票による不正投票という考え方に信憑性を与えていた。記事の7段落目でようやく、郵便投票が不正投票を引き起こす証拠はまったくないと言及している。

ちなみに、このような背景があったとしても、ソーシャルネットワークがデマに関する責任から逃れられるわけではない。デマはフェイスブックやユーチューブなどに存在する大きな問題だ。トランプ大統領のツイッターアカウントはデマキャンペーンの中心になっている。トランプ大統領はメディアの目を引きつけ、米国メディアが取り上げる話題をほぼ意のままに形作るための手段として、自身の持つ権威と影響力を確実に行使している。

しかし、トランプ大統領のツイートやテレビ出演にかかわらず、大統領のメッセージを増幅させているのは、メディアが大統領のツイートを多くは無批判に報道することだ。これは個人のアカウントが単独で達成できることをはるかに凌駕している。

人気の記事ランキング
パトリック・ハウエル・オニール [Patrick Howell O'Neill]米国版 サイバーセキュリティ担当記者
国家安全保障から個人のプライバシーまでをカバーする、サイバーセキュリティ・ジャーナリスト。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る