KADOKAWA Technology Review
×
【冬割】 年間購読料20%オフキャンペーン実施中!
選挙結果の遅れは「正常」なプロセス、米セキュリティ高官
AP Images
Election result delays mean "the system is working" says cybersecurity chief

選挙結果の遅れは「正常」なプロセス、米セキュリティ高官

米大統領選の選挙結果が確定するまでには通常でも時間がかかる。「不正があったから遅れた」というデマに今から備えるべきだ。 by Patrick Howell O'Neill2020.10.26

今年の米大統領選挙は前例のないほど多くの郵便投票が見込まれているが、その選挙結果は非公式の結果を含めて、通常よりも遅れて発表されそうだ。一方で、ドナルド・トランプ大統領による選挙のセキュリティに関するデマキャンペーンでは、あらゆる選挙結果の「遅延」が不正によるものであるとする、誤った主張が繰り返されている。

これに対して、選挙を守る政府関係者は、通常よりも遅い結果発表は当然予想されるものだと主張した。

CISA(サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁)のブランドン・ウェールズ事務局長は、「今回の大統領選では、選挙結果の処理手続きにおいて、さまざまな遅れが生じるでしょう」と述べる。「実際には、選挙を正式に実施するプロセスはいつもと同じなのです」。

「結果は選挙当日の夜には出てこないかもしれません。しかしそれは、選挙結果に不正行為がなされたのではなく、システムが正常に機能していることを意味するのです」

ウェールズ事務局長は、「そもそも、これまでも大統領選当日に皆さんが触れる情報は、すべて非公式の結果だったのです」と付け加える。「各州の選挙管理当局の最高責任者の認定を受けるまでは、投票は完了していないのです。そしてこの認定は、しばしば選挙の数週間後に行われたりします。州によっては、非公式の結果ですら当日には判明しないかもしれません。共和党と民主党の支持率が拮抗しているスイング・ステートにおいても、そのようなことが起きるかもしれません。だからこそ、選挙当日の夜には結果がわからない可能性があると言っているのです。国民はこの事実について、懸念する必要はないと伝えたいです。不正行為がなされたわけではなく、むしろシステムがきちんと機能している証なのです。地方自治体や州の職員は選挙の専門家です。彼らに任せましょう」。

以上のコメントは、MITテクノロジーレビューの「スポットライト・オン・サイバーセキュリティ(Spotlight On Cyber​​security)」というイベントの中でのものだが、今年の大統領選が直面する課題について端的に説明している。

期日前投票の途中集計を行なう「エレクション・プロジェクト(Election Project)」によると、現時点ですでに3800万人以上の米国人が郵便投票を済ませている。これらの投票の集計には、署名の立証や、セキュリティ対策のために秘密保護用の封筒を使用した二重の封筒を開封することで、直接投票よりも時間がかかる可能性がある。加えて、集計自体がしばしば遅れて始まることを考えると、結果の判明も先送りになる可能性がある。それでも郵便投票は、トランプ大統領が繰り返してきたデマに反して安全であり、不正行為の発生は極めてまれだ。

とはいっても、課題が全くないわけではない

仮に米国で大統領選当日に選挙結果が判明しない場合、選挙の合法性に疑義を示す目的のデマの嵐が巻き起こる可能性がある。ウェールズ事務局長のような連邦政府関係者は、例えばロシアのような関係国が、米国の民主主義にとって重要なタイミングで混乱に拍車をかけてくる可能性もあると述べている。

ウェールズ事務局長は、「われわれの役割は、まず第一に選挙に関するデマを正すことです」と述べた。

最近の一例として、ロシアのニュース・サイトがミシガン州の有権者データベースがハッキングされたと報じ、このニュースがすぐに広まったことがあった。CISAやジャーナリストらによってこの情報は訂正されたが、「盗まれた」とされた全てのデータは、実際にはほとんどの州の有権者名簿と同様にすでに公開されていたものであったのだ。システム上で不正行為は全く起きていなかったにも関わらず、言葉の攻撃だけが小さな山火事のように広まった。

しかし、大統領選当日の脅威は遥かに大きなものになる。

外国勢力によるデマの脅威も確かに深刻だが、ほぼ確実に発生するであろう米国内のデマと比べると、まだ扱いが容易だ。トランプ大統領は、もし自身が落選したり選挙結果がすぐに発表されなかったりした場合、「盗まれた選挙」だと主張することを事実上約束している。

悪意ある行為者が外国ではなく米国内にいた場合、ウェールズ事務局長の計画はどうだろうか?

ウェールズ事務局長は、「合衆国憲法修正第1条によって国民には言論の自由が保障されているので、米国政府の国民への対応は、国外からのデマへの対応とは確かに違います」と述べた。「ソーシャルメディア企業は個々の利用規約に基づき、行動します。CISAの役目は変わりません。われわれの任務は、国民が目にする情報を正当に評価する手法を提供することです。デマが外国から来ようが国内で起ころうが、われわれの仕事は可能です」。

デマの出どころが外国であろうと米国内であろうと、CISAの計画は米国民を信頼できる情報源に誘導することだ。

「ほぼ全ての場合において、州や地方自治体の選挙管理当局は選挙を運営するプロであり、投票が正確に集計されるよう監督する正当な権限を有しているのです」

人気の記事ランキング
  1. AI’s search for more energy is growing more urgent 生成AIの隠れた代償、激増するデータセンターの環境負荷
パトリック・ハウエル・オニール [Patrick Howell O'Neill]米国版 サイバーセキュリティ担当記者
国家安全保障から個人のプライバシーまでをカバーする、サイバーセキュリティ・ジャーナリスト。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る