元クォーラ幹部が立ち上げ、
「思いやり」を組み込んだ
実名制SNSは成功するか?
実名登録はソーシャルメディアでの誹謗中傷を抑止できる効果もあると考えられるが、社会的に立場が弱い人たちが発言しにくくなるという課題もある。テレパスはソーシャルメディアの運営に「思いやり」を持ち込むことで、その課題を解決しようとしている。 by Tanya Basu2020.10.21
ノラ・タンは中学・高校時代、3大ソーシャルメディア・アプリをダウンロードした。もっともなことだ。今はシアトルでプロダクトマネージャーとして働くタンは、「ソーシャルメディアが本当に盛り上がっている時代に私は育ちました」と話す。「2009年にフェイスブックのアカウントを作り、2010年にはインスタグラム、その後高校生の時にツイッターのアカウントを作りました」。
タンは大学に入学するころ、自らの決定に疑問を抱くようになっていた。タンは、「コンテンツ・モデレーション(監視)のあるべき姿について、またそれが政治運動や政策課題の推進にどう活用されてきたかについて考えました」と述べる。そうして学んだことに心を痛めたタンはツイッター・アカウントを削除し、インスタグラムは親友のアカウントをフォローするにとどめている。検索バーにフェイスブックと入力した時に、友達からの通知だけが表示されるグーグル・クロム(Chrome)の拡張機能も導入した。
そのため、2019年3月に友人から新しいソーシャルメディア・プラットフォーム「テレパス(Telepath)」のプライベート・ベータテストに誘われた時、タンは「かなり冷笑的」だった。テック業界に身を置く非白人の女性にとっては、特に懐疑的だった。それから18カ月経った今、テレパスは彼女が唯一利用しているソーシャルメディアになった。
以前クォーラ(Quora)で要職に就いていたマーク・ボドニックが共同創業者に名を連ねるテレパスは、どこかクォーラにフォーマットが似ている。登録は招待限定で、ユーザーは他のユーザーやトピックをフォローできる。スレッドにはツイッターに似たリアルタイム性があり、投稿は30日経過すると消えるなど、スナップチャットと似たはかさなさも備えている。
ここまでは大して注目するべき点はないが、テレパスの大きなセールスポイントは別にある。社内コンテンツ・モデレーション・チームが思いやりを強制し、ユーザーは実名を公開する必要があるということだ。
実名制というテレパスの方針は、コンテンツ・モデレーション・チームが捨てアカウント相手のいたちごっこに陥ることなく、誹謗中傷の発見に集中するためだ。同時に、人間らしい会話を促すためでもある。コミュニティ・安全担当の責任者であるタチアナ・エステベス部長は、「利用には個別の電話番号と認証が必要で、グーグル・ボイス(GoogleVoice)の捨て電話番号は使えません」と述べる。「他のプラットフォームでは複数の多重アカウントのせいで、甚だしくひどい事態が引き起こされています」。
この方針はすでにプラットフォーム外部から、女性や社会的に疎外されているグループの人々を危険にさらすとして批判を浴びている。
コーネル大学のシチズン・アンド・テクノロジー研究所の創設者J.ネイサン・マティアス教授は、「広く信じられていることの1つに、人々は実名を名乗っていると他人に身元が分かるので、社会的な場でよい振る舞いをするというものがあります」と述べる。「初期のエビデンスは1980年代に見られますが、これは多様な人間集団についてのものではなく、現在のインターネットを説明するものではありません」。
現実には、仮名を使っている人の中には社会的に疎外されている、あるいは弱い立場にある人たちが多い。ネット嫌がらせや晒しを防ぐのがその目的だ。
ネット上の個人情報を使って嫌がらせや脅迫を行なう「さらし(doxxing)」行為は、社会的に疎外されている人々の多くにとって命に関わる問題であり、そのためにこうした人達の間でフェイスブックやツイッターは嫌がられている。ソーシャルメディアは、弱い立場にある人を保護していないとして批判を受けている。これに対 …
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